べとまるのトップページに掲載しているイラスト。しれっと載せたので「あれなに!?」と思ってはいませんか?思ってない?思って…。あれ、ベトナムの漫画家さんに描いてもらったものなのです。その名もDương Đức氏。個人的にも応援しているのですが、今回のイラストのこと、また漫画家としてのその背景や夢について伺いました!
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2019/12/24
べとまるのトップページに掲載しているイラスト。しれっと載せたので「あれなに!?」と思ってはいませんか?思ってない?思って…。あれ、ベトナムの漫画家さんに描いてもらったものなのです。その名もDương Đức氏。個人的にも応援しているのですが、今回のイラストのこと、また漫画家としてのその背景や夢について伺いました!
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2019/12/24
漫画っていいですよね!
漫画の漫とは、平安時代に貴族たちが砂に絵を描いた「漫」という描き遊びから来ているそうです嘘です。
目次
最近はウェブサイトへの訪問って、SNS経由で記事ページに直接…というケースが多いので、これを見ている方のどれだけが気づかれたのかわかりませんが、トップページ、見ました?一カ月ほど前からとあるイラストをデカデカと置いてあるのです。
どーーーーん!
はい、このサイト、べとまるのイラストです。一見するとめちゃくちゃというか、なにが言いたいのか分からないカオスな状況ですが、よ~く見ると!実はこれまでにやった企画を象徴するものをあしらっています。
いや~、
よくまとまったよね。
そんな素晴らしい出来栄えですが、もともと私が描いたラフ(イメージを伝えるスケッチ)はこんなクソみたいな落書きでした。この通り…。
クソみたいな落書きでした!!
これが、
こうなって、
ああなって、
そんなことになって、
こーんなことになった!!
なんなのもう、プロの仕業なの?(プロの仕業です)
そのプロが、
ベトナム漫画界のエース、Dương Đứcさん!
このお写真、ご本人からもらったものだけど人柄出てるわー。
ちなみにエースは私が勝手に呼んでいるのですが、やっぱりエースだと思います。
Đứcさんとは、以前私がデイリーポータルZというサイトでベトナムの漫画事情を取材したときに知り合いました(「燃えよペンタブ!ベトナム漫画家は黎明期」)。というより、もっと言えば、この取材のきっかけがホーチミンの書店でĐứcさんの漫画を見かけて、「ベトナムの漫画ってこんなハイレベルなの!?(内容はベトナム語なのでわからなかったけど)」と驚いたことだったんですよね。
発見時に撮った写真がこれ。もうほぼ4年前だなー。
そうして取材をした記事が公開され、彼が尊敬する漫画家・村田雄介先生(代表作は「ワンパンマン」「アイシールド21」など)にも記事を通じてĐứcさんの存在が伝わって、それからも私と彼は、日本の漫画賞を見つけては共有したり、いっしょにランチをしたり、関係がつづいていたのです。
燃えよペンタブ!ベトナム漫画界は黎明期 – デイリーポータルZ https://t.co/cet5iVIVKn これは嬉しいなあ。光栄です。ありがとうございます!
— 村田雄介 (@NEBU_KURO) January 27, 2016
村田先生、その節はお返事いただきありがとうございました。
さて!そこで今回は、そんなĐứcさんの創作活動や夢、そして、べとまるのイラストを制作するにあたってどんな印象を抱いたのか、などなどを聞いてみたいと思います!
まずは気になるところです。
小さい頃、具体的には3歳から、ドラゴンボールのキャラクターを描きはじめました。4歳か、5歳の頃にはじめて『洞窟探検家』という5ページの短い漫画を描いてから、教室でずっといろんなユーモラスな物語を描きつづけました。ひとつの23ページの短編を描いたのが12年生(日本での高校三年生にあたる)で、その頃にインターネットを通じて、プロの漫画家が使うペンや、スクリーントーン(模様をつけるための専用用紙)、そして漫画制作のためのコンピュータの使い方を学びました 。
合計で6つの短編、2015年からは4年間に渡ってひとつの長編を手がけました。
4年間!ぜんぶ気になるけど、とくにその長編について教えてほしいです。
“Nhóm Máu O”(血液型O)(Đứcさんの代表作品)は、テレビ番組の学生が知識を競うコンテストである”Road to Olympia”に触発された学園漫画です。主人公は、誤ってコンテスト出場者に選ばれてしまった男子高校生。そして出場にあたって、子どもの頃から長い間忘れていた記憶を思い出していきます。
“Road to Olympia”、これだ。もう10年前の映像だけど。日本でいう全国高校生クイズ大会(正確には「全国高等学校クイズ選手権」)みたいなものなのかもしれない。ベトナムは確かに、しばしば数学オリンピックという大会で優秀な成績を残していて、実はすごく数字(数学)に強いイメージがある。
これは昔の記憶を呼び覚ましてるところ…かな?ベトナム語の教材に使って学んだら覚え早そうだ。
なるほど…今まで絵は知っていたから、「あのシーンってそういうことだったのか」と今さらいろいろ理解しました。
これは私のデビュー作品ですが、実は委託作品なんです。
えっ、そうだったの!?
そう、ベトナムの学園モノだからアオザイもよく出るんですよ。よく日本の漫画やアニメを通じて文化を知ったという外国人の方の話があるけど、それがベトナム発なら同様のことが言える訳です。
ComiCola(※)からの依頼があったことがきっかけでした。個人的には、テレビ番組に基づいた作品をつくることが好きだとは言えず、ときどき嫌ってさえいました。しかし結局のところ私は、キャラクター、ストーリー、執筆、すべてを自分自身の手で制作することになり、素晴らしい成果を残せたと感じています。この作品にそれほど誇りがある訳ではありませんが、4年に渡って連載を終了させたときの満足感は確かなものでした。
※漫画投稿サイトであり、漫画家のマネージメント会社。詳しくはデイリーポータルZの記事をご覧ください。
個人的にお気に入りの、彼のさまざまな作風がふくまれているイラスト。本人のFacebookページから。
4年に渡る大仕事を終えた訳ですが、今は何を?
フリーランスとして活動しています。広告案件の視覚化(絵起こしなど)や絵コンテを制作することもありますが、ごくまれです。それよりはもっと、新作を考える時間に充てたり、より自分が知られるために(直訳すれば「名声を得るため」に)、無料でインターネットに作品をアップすることに力を注いでいます。
これは聞きたい。
『ドラえもん』の藤子・F・不二雄先生、『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博先生、『ベルセルク』の三浦建太郎先生、そして『ドラゴンボール』の鳥山明先生です。ですが、もちろん私は、創造的で、意欲的で、勤勉で、規律的な、すべての漫画家に敬意を表しています。
なにか目標・目的があれば!
もちろん人気を得ること、また願わくば有名になることです。そして何百万人ものファンを獲得し、作品によってたくさんのお金を得る。数軒の家を買い、家族を支え、子どもを育てる、そのために十分なお金を稼ぎたいです。さらに彼ら(家族)と世界中に旅ができたら最高ですね(笑)。それが私にとっての幸福な人生です。
漫画家としての話を聞いたあとで恐縮だが、ここでべとまるのイラストについても話を聞きたい。というのも、私がベトナム語が読めないように、彼もまた日本語が読めないので、そもそもこのサイトがどういうものかわからないはずなのである(ただでさえ日本人相手でも説明に困るくらいなのだから!)。
それにもかかわらず、的確に言いたいことの根っこを掴んでもらえたというか、「そうそう、こういう感じ!」という、言葉にはできなくとも、確かにイメージを共有し、素晴らしいイラストが仕上がってきたことが、ずっと気になっていたのだ。すごい!でもなぜ!?なぜ分かるんだい!?っていう。
率直で構わないので…私のラフを見たときにどう思いましたか?(笑)
あなたが描いたラフスケッチを、私はおもしろいと告白しなければなりません。私の彼女はまるで子どもが描いたように見えるとさえ言いました!とはいえ、その内容はプレゼンテーションとしてとても明確で、理解することに何も問題はなかったです。
あ、あ、安心した…そして子どもが描いたようにって言葉を完全に誉め言葉として受け取っている自分がいる。コノ感情ハ過去ノデータニナカッタゾ…。
これまでインターネットでいろんなものを見てきましたからね。私自身もオープンな考えなので、これくらいのものならまだまだふつうに見えますよ(笑)。
とはいえ。私が今回のことで驚いたのが、こんなラフにも関わらずĐứcさんがすごい速さで正確に理解してくれたことです。そこが依頼前に考えた最大のネックでした。回答がむずかしいかもしれませんが、それはなぜですか?
さきほど話したように、私はときにお金を稼ぐために、広告案件の視覚化を請け負います。とくに広告キャンペーンではアイデアを提案する工程があるため、それを売り込むためにアートディレクターの考えを表現する必要があるのです。しかし多くの場合、彼らは厳しいスケジュールで動いているので、早く、かつクライアントの求めているものとも一致させなければなりません。さらにクライアントによって意見も異なるので、こうして今言葉にする以上にむずかしい話です。中には、視覚的思考に欠ける人、自分が何を望んでいるか分からない人、要求が過酷な人、表現に苦労する人、などなど。彼らと仕事する経験を通じて私は理解を深めてきたので、あなたといっしょに仕事をすることは、私にとってとても簡単でした。
なるほど…。フィーリング、というのもゼロじゃないとは思うけど、その背景にはプロフェッショナルとしての力量があったんですね。理解した!
私は言うまでもなくあらゆる分野においてベトナムびいきな訳ですが。そもそも今もジャンプを定期購読している(最近めっちゃおもしろいよ!作品の8割くらいおもしろい!)漫画ボーイで、おもしろいと聞けばジャンル問わずわりと雑食でなんでも読んできました。つまり、ベトナムと漫画が好き。そんな属性だったものだから、ベトナムの漫画界が盛り上がっていて、こうして縁を持てて、しかも自分のサイトのイラストを描いてもらったことは、本当に本当にうれしいんですよね。うれしいのよ。
この感激の恩返しができればと常々考えているんですが、いつももう一歩のところで届かないでいる…と思ってる。もしこの記事を漫画業界の方が読み、おもしろいことができそうだと思ったら、ぜひご連絡いただきたいと思います。私をスルーして問い合わせてもらってもいいし。彼らが繁栄するなら、それだけで十分です。いや、そこまで聖人じゃない。私の仕事としてもそれができたら、本望です。
ĐứcさんのアーティストFacebookページはこちら。
Dương Đức Comic