ベトナムの質屋にはなにが売られているんだろう?そんな好奇心で訪れてみたら、金貸し屋で肝を冷やすことに…!質屋事情とはそのまま借金事情なのでした。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2019/11/29
ベトナムの質屋にはなにが売られているんだろう?そんな好奇心で訪れてみたら、金貸し屋で肝を冷やすことに…!質屋事情とはそのまま借金事情なのでした。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2019/11/29
本記事は、2017年6月1日に「ネタりか」(運営元:ヤフー株式会社)で公開された記事を転載したものです。 サービス終了に伴い、許可を得た上で、べとまるにて公開いたします。
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こんにちは、ベトナム在住ライターのネルソン水嶋です!
今、私の斜め後ろにある「CAM DO」というお店……。
実はこれ、「質屋」なんです! そう、ベトナムにもあるんですね~。
私は利用したことはありませんが、日本において質屋といえばクリスマスなどのイベント直後に指輪やネックレスなどの貴金属類が大量に流通する……なんてイメージがあります。
では、ここベトナムでは、どんなものが売られているのでしょうか? また、日本との違いは? 調べてみたところ、意外にもベトナム人の「借金事情」が見えてきました。
目次
というわけで、まずは現場へ! ベトナム人の友人に取材の通訳をお願いすることに。
ネルソン「頼みます!」
友人「え、質屋ですか? うーん」
ネルソン「えっ、どうしたの?」
友人「怖い……」
ネルソン「な、なんで? ただの質屋だよね??」
友人「たぶん、取材受けてくれないと思います」
ネルソン「じゃあ、スマホ欲しかったし客として行くよ! それならいいでしょ?」
友人「ま、それなら……はい、分かりました」
いつもは気軽にOKしてくれる友人の対応に違和感を覚えつつ、お店へ向かいます。
軒先に時計や車などの写真があるあたり、幅広いラインナップのようだ。
ネルソン「こんにちはー」
店員さん「……なんの用?」
出てきた人は両腕にバリッと入れ墨の入った無愛想な男性で、少しビビる。それはそうと、店内には商品らしいものが何もない。入って右手にあるグレーの業務用デスクの上には招き猫と紙幣を数える機械、あとは紙の書類が無造作に置いてあり、ほかには別の男性が座るソファとテーブル、大人しい犬の入った檻があるだけ。
とても写真を撮れる雰囲気ではなかったので、記憶による男性のスケッチ。画力についてはつっこまないでください。
ネルソン「スマホのラインナップを見せてほしいんですけど……」
店員さん「ないよ」
ネルソン「えっ」
店員さん「ない」
ネルソン「えーと、それじゃあバイクとかは……」
店員さん「ない」
ネルソン「はぁ」
取り付く島もないとは、まさにこのこと。「お帰りください」と言わんばかりに、私たちが入ってきたドアを無言で開く。
お店なのにえらく不親切な……。何か気に障った? 質屋じゃないの?? と思いながらも、怖いので素直に退散。
友人「いやー怖かったですね」
ネルソン「あれ、質屋……だよね?」
友人「質屋はベトナムだとアンダーグラウンドな扱いなんですよ」
ネルソン「アンダーグラウンド??」
友人「質屋ってお金を借りる場所でしょ、その取り立てとなるとやはり怖い人が出てくる。だから、ベトナムで質屋って、ちょっと怖いイメージがあるんですよ」
ネルソン「ちょっと待った! ベトナムの質屋は、昔のサラ金みたいな怖い店ってこと?」
友人「そんな感じです。ベトナムでは個人がお金を借りる所といえば質屋になります」
な、なるほど……!
なお、日本でも質屋で物品を担保にお金を借りることは可能。ただ今回の私がそうであったように、借金をする場所といえば質屋よりも消費者金融や昔のちょっと怖いサラ金のイメージが強く、なかには闇金のようなアンダーグラウンドなイメージを持つ人もいるだろう。ベトナムは信用主義よりも現物主義の傾向が強く、最低でも確実に物品は回収できる質屋が主流ということらしい。
そうすると、ベトナムにおいて「質屋に連れて行って!」は、日本でいうところの「サラ金に連れて行って!」と同じ意味! それならさっきの状況も腑に落ちる。そりゃ友人も気が引けるわけだ、なんだか申し訳ないことをした……。
友人「だから、物を買う目的で質屋の店頭に行く人はほぼいません」
ネルソン「それじゃあどうやって買うの?」
友人「事前に電話やメールで確認するケースが多いのだと思います」
ネルソン「なるほど……だから『こいつら客じゃねぇ』と思われたと」
友人「そうです」
なお、最近では「質屋のネガティブイメージを変えたい」とオープンな雰囲気を前面に押し出した質屋チェーンが登場。フタを開けたところ、ベトナムの質屋業界は過渡期にあったのだ。
質屋が取り扱うラインナップは、バイク社会のベトナムらしくバイクをはじめとして、ブランド物の時計やバッグ、貴金属類、スマートフォン、パソコン、複合機、果ては車まである。とはいえ、品揃えに関しては日本と大きくかけ離れてはいないが、この「質屋に物が売られるまでの経緯」が日本とは大きく違った。
ネルソン「日本だとクリスマスなどのイベント後に商品が増えるなんてことも言われるけど、ベトナムだとどういう時期に増えるの?」
友人「さっき話した通り、ベトナムだと質屋=消費者金融という側面が強いので、質屋に借りたお金が返せなかったときに商品が増えます。それはいつかというと、ワールドカップのあとです」
ネルソン「ワールドカップ? なんで??」
友人「賭け事の軍資金としての借金です」
ネルソン「あ! へー!」
ベトナムではサッカー観戦が大人気。夜、川沿いの涼し気なストリートに行くと、建ち並ぶカフェ店内ではパブリックビューイング(大型映像装置を使用してのスポーツ観戦イベント)をしていることが多く、熱がこもってるなーと思いきや、その理由は賭け事の行方を見守っていたからということもある。
川沿いのカフェではサッカーの試合のパブリックビューイングを行うことが多い。
庶民ギャンブラーにとって4年に一度のワールドカップは選手と同じく大勝負の年。ワールドカップに限らず、舞台がヨーロッパであろうが東南アジアであろうが、何かしら大きな大会であればお金を握り締めて賭けに出る。そこで軍資金のために質に入れるものは、全世帯の8割が持っているというバイクであり、大会のあとの質屋には賭けに負けた者たちのバイクが並ぶ……というわけなのです。
そんなベトナムの質屋事情! まとめるとー、
●大きなサッカー大会のたびに賭け事の軍資金として質屋でお金を借りる人が多い
●預けるものは、ほとんどのベトナム人の所有物のなかでも高価な「バイク」
●日本だとサラ金と質屋は別だが、ベトナムだと質屋に役割が集約される
●ネガティブなイメージを払拭させるオープンな雰囲気の質屋も増えている
と、いうことが分かりました!
ベトナムの質屋は、庶民ギャンブラーによって支えられていると言っても過言ではなかったのです。ちなみに道端に汚れたトランプが落ちていたりしますが、それもだいたい賭け事をやった形跡です。
「ベトナムの質屋には何が売られているのか?」という好奇心から始まったこの企画ですが、思いがけずベトナム人の借金事情を知ることとなりました。賭け事におぼれてベトナムの質屋の常連客に……なんてことにならぬよう、気を引き締めて生活したいと思います。
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編集:ノオト