アニメなどはデジタルコンテンツ化できるので広めやすいですが、こういった武道は伝えられる人がいてこそなので本当に希少ですよね。ベトナムで居合道の種が植えられ、その系譜が続いていければ素晴らしいです。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/05
アニメなどはデジタルコンテンツ化できるので広めやすいですが、こういった武道は伝えられる人がいてこそなので本当に希少ですよね。ベトナムで居合道の種が植えられ、その系譜が続いていければ素晴らしいです。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/05
武道っていいですよね!
武道と葡萄は言葉が同じですが、特に関連はありません本当です(投げやり)。
さて、引き続き、ベトナムで居合道を教えている井浦さんを取り上げます。
前回は稽古風景だけでしたが、今回は井浦さんにインタビューを受けていただきました。
稽古を終えると、少し前までの凛とした表情とは違って非常に柔和な方という印象を受けます。
24歳という年齢を考えるととても落ち着いていらっしゃいますね。
***
ー大学で日本語を教えたくて、ベトナムへ。
ネルソン「まず、どういう経緯でベトナムへ?」
井 浦さん「海外で日本語を教えたいという思いがあって、大学では日本文化学科に通っていました。卒業後にマレーシアの大学で働く予定だったのですが、大学の 事情で出来なくなり、タイとシンガポールでは高校しか教えられなかったので、それでは大学で教えられるベトナムへということになりました」
ネルソン「高校?タイとシンガポールの高校では日本語を教えてるんですか??」
井浦さん「はい、選択教科の中に日本語も入ってるんですよ」
ネルソン「それは知らなかったな…」
井浦さん「ただ、実際に来てみると、これからベトナムの日本語教育は発展していくと感じますね」
ネルソン「理由は?」
井浦さん「日系企業が増えているからです。すごく、需要が高まっていることを感じています」
井浦さんが日本語を教えている授業風景
ー居合道は中学生の頃、日本文化に関心があって始めた
ネルソン「居合道はいつから始められたんですか?」
井浦さん「中学三年の11月頃です。弟が剣道をやっていて、その先生が居合道も教えており、演武を見る機会も多かったんです。それが単純にかっこよく、また凛とした空気が気に入って、学び始めました」
ネルソン「でも、居合道の道場って何処にでもあるものじゃないですよね」
井浦さん「それが私の場合は幸運で、近所に道場があったんですよ!それから9年以上続けています」
ネルソン「おぉ、それは始めるべくして始めたというか…。居合道って、正に日本の武道ですよね。そして日本語教師。中学の頃から始められたということですが、これはつながりがあるんですか?」
井浦さん「もともと、海外に日本の文化を伝えるということに興味があったんです。初海外は中学の修学旅行で行ったアメリカのネブラスカ州だったんですが、現地の子に折り紙を教えて、あぁ、いいなぁと」
ネルソン「それからの居合道…なるほど、確かに理屈が通ってる」
ーベトナムで居合道を教え始めたきっかけは、『先生の日』に行った大学での演武
ネルソン「それでベトナムにやってきて、どういうきっかけがあって教えることに?」
井浦さん「来てまだすぐの三週間後に、『先生の日』に大学で演武をしたんです。それを見て『私もやりたい』と言ってくれた学生の子がいて、もともと創りたいという思いはあったんですが、それから生活や仕事が落ち着いた頃に居合道部を創設しました」※ベトナムでは11月20日を『先生の日』という、先生に対し感謝や敬意を表す日がある。
ネルソン「今、部員数はどれくらい?」
井浦さん「2,3年生が9~10人、1年生が5人…」
ネルソン「さっき『入部する』と言っていた2人(3年生)を足して…」
井浦さん「そうですね、彼らを足して初心者クラスは7人になります」
ー居合道を教える際に、日本とベトナムで違うこと
ネルソン「日本では居合道を教えたことはあったんですか?」
井浦さん「いえ、ないですね。居合道は、初級と、初段から9段まであって、一般的に人に教えるには4段以上の段位が必要なんです」
ネルソン「今、何段?」
井浦さん「4段です。ベトナムへ来る直前で取ってきました」
ネルソン「正に今のために取ったんだ笑」
井浦さん「そうです笑」
ネルソン「教える内容はどのようなもの?」
井浦さん「私の流派には、決まった型があるんです。自分が教わったことを、そのまま教えています」
ネルソン「ベトナムで教える上で工夫や苦労しているところはありますか?」
井浦さん「やっぱり全ての言葉が伝わらないことですね…」
ネルソン「たとえば?」
井浦さん「『右』や『左』も聞いてすぐには対応出来ないですし、『手を刀にかけて』という言葉もなかなか伝わらないので説明から入ります」
ネルソン「あ、それは苦労する…」
井浦さん「はい笑…だから、なるべく簡単な単語を使っています。たとえば居合道では『仮想敵』という言葉がよく出るのですが、難しすぎてもいけないから学生には『敵』や『悪い人』という言葉で説明します」
ネルソン「確かに、稽古中でも『敵』という言葉はよく出ていましたね」
井浦さん「他にも、やはりみんな日本語を学んでいるので、稽古中に身を以て覚えたことを、文字でも説明しています」
ネルソン「そういえば、稽古中に紙に書かれた字を見せていたのはそういうことですか」
井浦さん「はい。それ以外では、2,3年生だと日本語がよく分かる子が多いので、そのクラスでは技術だけでなく居合道を通して学べる精神的なことについても触れています」
井浦さんが稽古中に学生に見せていた、『緩急』と書かれた文字。
ー居合道をはじめてみたベトナム人学生の反応は
ネルソン「実際にやってみて、どのような反応があります?」
井浦さん「やっぱり日本って『侍』『桜』『富士山』などをイメージする学生が多くて、『剣で闘える』と思って入ってくる子が多いですね苦笑」
ネルソン「居合道は型だから…」
井浦さん「はい。だから最初は戸惑うんですけど、続けている内に居合道の面白さ…常に平常心を保つとか、正に居合道の根幹の、人間形成の部分にハマっていくみたいです」
ネルソン「平常心とか、ベトナム人でも南部の人達とは真逆のイメージがあるだけに面白いなぁ笑」
井浦さん「そうですね笑」
ー居合道の魅力は…
ネルソン「ズバリ、居合道の魅力って何ですか?」
井浦さん「先ほどもちょっと触れたように、自分自身を鍛えることや、凛とした空気そのものですね。知れば知るほど、奥が深いと感じます。」
ネルソン「自分自身を鍛える。『仮想敵』とは正に…」
井浦さん「そう、『仮想的』とは自分自身のことなんです。背格好も、自分と同じものを仮想します。それに、全ての動きに意味があり、刀を扱うことによって数百年前の侍の考え方…正に武士道ですよね、それが共有出来ることが魅力だと思います」
ネルソン「時を超えて侍の精神を感じる…実に壮大ですね。それは確かに奥が深い」
ー今後の展望について
ネルソン「今後、ベトナムで居合道をどう展開していくか、考えはありますか?」
井浦さん「私が教えた学生が、他の人にも伝えられるようにすることです」
ネルソン「自分がいなくても広がっていく状態にすると」
井浦さん「はい」
ネルソン「ベトナムに居合道の種を植えるようなものですね」
井 浦さん「過去に、居合道を教えている学生の一人からこんなメッセージをもらったことがあったんです。アメリカ人の友達に、居合道を紹介したと、その表現は 大変だったけど、それが伝えられたことによって自分は幸せで、大変誇りを思っている。私は、それを聞いた時にとても嬉しく思いました。日本の文化を海外に 伝える…このことこそが自分の夢だったのだと」
ネルソン「分かる…分かります。私自身、ベトナム人の方から応援のメッセージをいただくことがありますが、きっとそれは似ている感情なのでしょう。自分が伝えたい思いが、きちんと相手に伝わっているということに対する喜びというか。大変、貴重なお話を有難うございました」
井浦さん「こちらこそ有難うございます」
井浦さんと日本語を学ぶ生徒の皆さん
***
いかがでしたでしょうか。
井浦さんが主宰している居合道の稽古練習は、見学・体験のみなら学外の学生でも日本人でも歓迎だそうです。近々、日本人向けの稽古も検討中だとか。
もしご関心のある方は、下記日時場所に行かれてみてはどうでしょう。
稽古を中断させないよう、必ず練習前にお訪ねください。
***
時間:毎週日曜日 8:00~9:00(2,3年向け)/9:00~10:00(1年(初心者)向け)
場所:ホーチミン市師範大学A棟2階階段踊り場(ベトナム数えだと1階)
***