ベトナム現代サーカス「AO Show」の監督のインタビュー。その後、ホーチミンの色々な場所でAO Showのフライヤーなどを見かけるのですが、その核となる人物には相応の歴史・技術・想いがあるのだなと思いました。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/15
ベトナム現代サーカス「AO Show」の監督のインタビュー。その後、ホーチミンの色々な場所でAO Showのフライヤーなどを見かけるのですが、その核となる人物には相応の歴史・技術・想いがあるのだなと思いました。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/15
監督っていいですよね!
監督は、あらゆる事柄・人々・組織などを見張ったり取り仕切る役割のことを言いますが、この概念が初めて登場したのは中世ヨーロッパの時代における十字軍の組織編成からだったそうです嘘です。
ベトナムの伝統と文化を汲んだ現代サーカス・A O Show。
先日はその舞台に登場する役者とミュージシャンへのインタビューを行いました。
そして今回はいよいよ、A O Showの仕掛人ことTuan Le監督へスポットを当てます。
A O Showがどのようにして誕生したのか。
Tuan Le監督はどのような人物なのか、迫ってみました。
A O Show監督・Tuan Le氏・1977年生まれ
ー監督がサーカスの道に入り、A O SHOWを立ち上げるまでの経緯を教えてください。
Tuan監督「まず、サーカスの道に入ることは私にとってとても自然なことでした」
ネルソン 「というと?」
Tuan監督「私の家族は芸術一家で、祖父はオーケストラの指揮者、祖母はバレエダンサー、父はトランペッター、母が舞台監督と、家族全員が何かしら芸術活動に携わっていました。なので、私自身も幼い頃から習い事をしており、この道に進むことは何ら特別ではなかったんです」
ネルソン 「そうなんですね、いつ頃から本格的にサーカスの道へ?」
Tuan監督「7歳で、演目はジャグリングでした。それから13歳でドイツへ渡り、ベルリンにあるサーカス学校で専門的に技術を学んで、ヨーロッパ各地を周って公演を重ねていきました」
ネルソン 「かなり早いスタートですね」
Tuan監督「そうですね。私はそうして早い内にサーカスの役者としてあらゆることを経験したものですから、20代の頃には自分で、ゼロから新たなコンセプトのサーカスを生み出したいと思い始めてきました」
ネルソン 「具体的には?」
Tuan監督「これまでのサーカスの定義を壊すような…。たとえば、サーカスといえばまずピエロというイメージがあると思いますが、それだけだとただ面白いだけで終わってしまいます。それよりも、サーカスに関わる人全員で感動を共有し、それぞれに意味の解釈を持ってほしい。それに、これまでのサーカスはAからZまで全て監督の指示に完璧に従うものでしたが、私はそれよりも役者自身が内側から湧き上がる感情のままに動きや表情を創りだしてもらいたい。他にも、役者の動きに合わせて音を当てるなどの実験的なこともしたく、そうしたいくつかの構想があって、2001年にコンセプトを発表しました」
ネルソン 「その場所に、ベトナムを選んだ理由は何でしょうか?」
Tuan 監督「私自身のサーカス人生は早熟で、一人のアーティストとしてはかなり早い段階で能力も経験も願うものを手に入れられました。すると次は、そうした自分 が持つものを伝える番になりたいと思うようになったんです。ベトナムは、やはり私のルーツですし、外の世界を見てきた自分の経験を活かしたい。そうして、 サーカス学校はあるもののまだまだ発展途上なベトナムにおいて、近い将来に『ベトナムにも素晴らしいサーカスがある』と世界中から認識されたいと考えたことが理由です」
ー『A O SHOW』という名前に至った決め手は何ですか?また、過去に別案があれば教えてください。
Tuan監督「実はベトナムでは、A O Showの前に一作目があったんです」
ネルソン 「そうなんですか!」
Tuan監督「ハノイのみでの公演だったんですが、タイトルが『Lang Toi(私の村)』というもので、北部の昔ながらの風景を表現したものでした。このA O Showは言わばその続編のようなもので、更にホーチミン市という『街』を表現するところから、『Lang (va) Pho(村と街)』というタイトルを考えていました」
ネルソン 「それが何故、A O Showに?」
Tuan監督「『Lang Pho』は…とても北部寄りの言葉の表現だったので、南部で公演する上でこれは本当にふさわしいかという話になったのです。そのため、『Lang』と『Pho』の母音をそれぞれ取ってつなげて『A O Show』と名付けました。別案はなく、すぐに決まりましたね」
ーこれからA O SHOWを観るという人のために、「A O SHOWをより楽しめる方法」を教えてください。
Tuan監督「そうですね…あらかじめ準備しておくことは、ありません」
ネルソン 「無いんですか笑」
Tuan監督「見て感じたそのままを、楽しんでください」
ネルソン 「なるほど」
Tuan監督「ただ、言えるとすれば、A O Showの中で『これは(外で)見たことがある』と感じる場面があるかもしれません」
ネルソン 「確かに…言われてみれば先日の鑑賞中の出来事で、大量の荷台を積んだ自転車が走る場面があって、私の目の前にいたフランス人親子がすごく笑っているのに対してベトナム人女性が全く笑っていなかったんです。でも、鳴り物を持ちながら自転車で走るマッサージ師が登場する場面、あれでは全くその反対のこと(フランス人が笑わずベトナム人が笑う)が起こっていたんです。これは、それぞれで馴染みのある場面が違うんだなぁと」
Tuan監督「そうですね!正にそのことだと思います。反対に、A O Showを見た後で、外で『これは(A O Showで)見たことがある』と感じる場面もあることでしょう」
ネルソン 「ベトナムの昔から現代までが凝縮されている現代サーカス、ということですね!」
***
いかがでしたでしょうか、伝統から現代までベトナムの情景を取り込んだ現代サーカス・A O Show。
私 もこれまでに都合二度観ていますが、役者の鍛え抜かれた身体から繰り出されるアクロバティックな動きや、何処か心落ち着くベトナムの伝統楽器による音の演 出や、そして時折笑い声も起こるベトナムのあるあるネタなど、唯一無二のエンターテイメントに仕上がっていると感じます。
また、新技を開発するなど、日々内容の充実度が高まっているとのこと。
後ろの席なら全体の構成が、前の席なら迫力が堪能出来ます。
個人的には前の席をオススメしますが、いずれにせよ是非ご鑑賞ください!