AFC U-23選手権、ベトナムが決勝進出という歴史的な快挙を果たしました。街中は国旗を掲げたバイクが走り回り、これは優勝したらどうなるんだ…という心配を胸に、行ってきましたよ!決勝のパブリックビューイング!なんともベトナムらしさが詰まりに詰まった一日になったよ。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2018/01/28
AFC U-23選手権、ベトナムが決勝進出という歴史的な快挙を果たしました。街中は国旗を掲げたバイクが走り回り、これは優勝したらどうなるんだ…という心配を胸に、行ってきましたよ!決勝のパブリックビューイング!なんともベトナムらしさが詰まりに詰まった一日になったよ。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2018/01/28
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
カフェにいると、上階から時折響く叫び声。確かここの三階に客席はないはず(二階にいた)。ってことは店員だよな??また賭け事でもしてるのか、さすがにこの盛り上がりは注意くらいしたらどうだ…と思って近くの店員を見ると、彼も控えめにガッツポーズを取っていた。なんだ、君も賭けてたのか?いや違う違う、これは明らかに違う……あっ、そうか!サッカーだ!!
AFC U-23選手権、つまり23歳以下の選手によるアジアサッカー大会、今月23日の準決勝でカタールを下して決勝に駒を進めたベトナム。歴史的な快挙に街中は国旗を掲げてバイクで走り回る若者たちが埋め尽くす。その熱量の高さに圧倒されると同時に、そこで大会開催の事実を知った現地在住者の方も多いのではないでしょうか。はい、私もそのひとりです。
バイク大国・ベトナムという国の特徴がよく分かる喜び方。
U23決勝進出に湧くベトナム国民 – Spherical Image – RICOH THETA
じっまえーのバーイクで走り出す、行きーさきもー、分かーらぬまま…。
この日はみんな尾崎豊化(盗んだバイクでもないし、尾崎豊が盗んだ事実もない)。
誰かが「ベトナム、コーレン(頑張れ)!」と叫べば、呼応して誰かがこだまのように叫び返し、どこかで「パッパッパー!」とクラクションが鳴れば、合いの手を入れるように「パパッパパー!」と別の場所からクラクションが鳴り響く。そこに「帰らせろ!」と言わんばかりに「パー!パパーーーーーー!!」と苛立ちの伝わるクラクションが押し入り、「すごい、クラクションの意図が真っ二つに割れてる!」と感動する僕は物見遊山の外国人です。こんにちは。
当日の動画をつなげたもの。
アプリに付属していた適当な音楽を付けたことは少し後悔している。
そして、誰からともなく、つぶやいたのです。
「これ、決勝はどうなるんだ?勝っても負けても…」
なお、わたくしサッカーについてはズブの素人なので、試合内容について詳しく知りたい方はベトナムフットボールダイジェストをご覧ください。この記事で伝わる(ならうれしいなと思っている)ものは会場の雰囲気だけです。そりゃ結果くらいは書いてるけどね。
目次
当日は、街中では昼間から、
路上でのグッズを販売する姿を見かけたり、
ベトナムカラーのTシャツや鉢巻を巻いたひとびとがちらほら(レストランの店員まで!)。
そして私が向かう先は、Nguyen Hue通り。なんでもパブリックビューイングを行うそうで、決勝進出という歴史的快挙のさらに上(つまり優勝)を行くのならば、その瞬間をぜひとも歓喜の中で迎えたい!対戦国はウズベキスタン、よく考えたら日本に勝っているから日本人的にはウズベキスタンが勝った方がいいのかもしれないけど、関係あるか!わしはベトナムを応援したいんじゃ!
もみくちゃになることは間違いないけど、行くぞ~!
あー
ナンデスカコレ…。
この騒ぎっぷり。
U23アジアサッカー決勝その1 – Spherical Image – RICOH THETA
パノラマでもどうぞ。
もともとこの通り(ストリート)は、週末になると老若男女が涼みに集まる市内屈指の盛り場としても有名。が、それでもこのように人の頭しか見えない光景ははじめて見ます。いや、そもそもベトナムでこの人口密度、密室のエレベーター以外で見たことがないぞ。お上への愚痴は多いですが、戦史で負けなかった経験がそうさせたのか、本当にひとりひとりの愛国心は強い国です。
大画面の前に大勢が地べた座って見ているようです。多いな~!と思うことなかれ、この通りにこの一台だけではなく、合計4台設置しているらしいですからね。ぎゃふん!つまりこの4倍はあるし、街中もとい国中で国民全員がテレビに釘付けになっていることでしょう。
で、勝つにしろ負けるにしろ、試合終了まで何事もなく観られるかと思いきやー、これがもう「さすがベトナムさんやで…!!」と言いたくなる出来事満載だったのです!褒めてます!。さて、それではではでは、ベトナムフットボールビューイングダイジェスト(パクった)、ご覧ください!
いや、でも、本当に試合内容はベトナムフットボールダイジェストさんをご覧くださいね。試合ではなく会場のダイジェストなので、のっけから一気に試合内容を飛ばしたりしています(しつこいな、俺)。
決勝戦、キックオフー!
会場の中国・常州は最高気温で0度、さらに雪。直前まで開催されるかどうか検討中だったそうで、モニター越しのフィールドには積雪が。慣れないベトナム側の選手には厳しい環境です。それもあってか、開始早々7分後にウズベキスタンが先取点!う、うーむ!勝ちの目はまだあるぞ。
そして、開始から40分弱。前半戦も終わりに近づく頃…悲劇は起こった。
サポーター「ベッナム!コーレン!ベッナム…」
サポーター「!?」
サポーター「チョーイオオオォォォイ!!」(オーマイゴッド)
何が起こったのか!?説明しよう!モニターの電源が落ちました。
って、おいおい!この大一番でこれやるか?やっちゃうかー。
慌てて撮ったのでブレてるけど、すごい!ずっこけるノリがリアルに吉本新喜劇だ。
しかし停電にも慣れっこの彼ら、たくましくサッとスマホを取り出し試合の状況を検索します。といっても、混線が激しく通信環境が悪かったので、おそらくつながらなかったと思いますが…。
「どうなったの!?」
「点、取り返せるかな!?」
「ていうか落ちてんじゃねーぞ今日び!」
そんな混乱を極める会話(私の想像)が飛び交う中…救世主が!
個室でテレビを見ていた人が、ジェスチャーで一本指を掲げてくれた!(撮影し損ねたけど)
「いち…1点?」(ざわ…)
「1点獲ったってこと??」(ざわざわ……)
「おぉ、1点獲ったらしいぞ!うおー!!」(ざわざわざわ………)
サポーター「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
ざわめきが波及して、大歓声になるサポーターたち。
すごい!このデジタル社会に、こんなのろしのような情報の伝わり方を見られるなんて…!!
モニター関係者は青ざめているだろうが、これまでのベトナム生活で一番楽しい日かもしれない。
10分経って中継再開…
ほんとだ、一点入れてる!って、なんだこの答え合わせ。
いや、でも、これで入れてなかったら救世主はりつけにされてたからね。大事だよ。
そして引き分けのまま前半戦が終了、フィールドの積雪を除去するため長めの休憩です。
この間、スポンサー企業のCMが流れていたのですが、停電で中断した中継をエネルギードリンクを飲んで解決するという、これ以上の皮肉があるかという映像が流れていました。合わせ鏡みたいになっとる。
きっと企画会議ではそのままのことが起こるなんて想像もしなかったのでしょう。「本当にモニター落ちたらどうします?」「ある訳ないでしょ、今回に限って!」「ひひ、そうですね!ひひひ!!」みたいな感じで(「ひひひ」はベトナムの笑い声の文法表現です)。
それからしばらくは、「中継が再開しては雪の除去が終わってなかったことに気づいてCMに戻る」という展開を3回くらい繰り返している間、会場ではいろんなものを見ることが出来ました。
神輿のように運ばれる巨大トロフィー、奇祭か。
ベトナムの景勝地として知られる棚田が美しいサパでのダンス映像。
投げられた雪に少年がビックリするというどうでもいい映像に会場爆笑。
観客席にいる美女にフォーカスする映像に沸く会場(有名人かもしれません)。
U23アジアサッカー決勝その2 – Spherical Image – RICOH THETA
そんなこんなで後半戦開始!
が、得点は並行線、キーパーのナイスセーブやウズベキスタンのファウルによるペナルティなどに沸くものの、そのまま引き分けで終了。うーん、となると延長線戦…それでも決まらなければPKかー。当然、食い下がっても勝ってほしいところ…。
サポーター「よし、帰るか」
サポーター「頑張ったぞ俺たちのベトナムー!!」
って、え!帰るの!?観ていかないの!!?
いや、違うか、大事な場面だから立って観るってことかな?そういうことだろう。
「あ、まだあるんだって」
「あるのか、観なきゃ」
「座ろ座ろ」
再びウェーブのように座りはじめるサポーターたち、すーわるーんかーい。
あなたがた、俺よりサッカー知らへんのか。
これはつまり、サッカー応援が彼らにとって慣れない行為だということでしょう。
日本では定番の応援観戦が、この国では今はじまろうとしているのです。過渡期だ。
雪の除去も長引いたため、試合開始から3時間経っても決着が付かない長丁場に。
周辺もスッカリと暗くなる中、延長線という最後のステージへ…。
ここまで来るとただ黙って見守りたい。
そして…PKにもつれ込むかと思われた延長戦の終了直前、119分!
ウズベキスタンがゴール!!ぐわー!!(モニターの映像は見えませんが頭を抱える人多数)
結果は1-2でベトナム敗戦。ベトナム国民の夢を乗せたアジアサッカー王座への道、あと一歩届かず…。
U23アジアサッカー決勝その3 – Spherical Image – RICOH THETA
それでもパチパチと選手を称える拍手、みんな頑張った…。
お通夜ムードながらも、その場で余韻に浸らず帰路につくサポーターたち。ベトナムのいいとこでもある。
でも、次からは後始末もちゃんとね。
僕自身、日本以外の国をこれほど応援したことははじめてだっただけに、ちょっと泣きそうになってたくらいなので、彼ら自身の悲しみはよほどのことだと思います。前述の通り、延長戦やPK戦に気づかず帰ろうとしたことから不慣れな行為だったようなので、ナショナリズムとスポーツが融合した今回の体験は多くのベトナム人にとって新鮮なものだったんだと思う。
サッカー通の友人に聞くと、今回の若手選手たちは大手資本家(大企業)のサポートにより英才教育を施された世代で、それが花咲いた結果なのだろうと。彼らが主役になる時代が楽しみ。ベトナムではサッカーそのものは人気でも、プロのサッカー選手ですら国内のリーグでは月給が1000ドル以下は当たり前で(あくまで肌感覚で、ピンキリなのは重々承知していますが、都市部の平均月収は300-400ドルだと思う)、あまり夢を持たれる職業ではないんだそうな。
しかし今回、ベトナムをアジアNo.2に導いた選手たちには政府から勲章や報奨金が与えられるということで(後者はたぶんだけど)、リオデジャネイロ五輪の射撃で金メダルを獲得したHoang Xuan Vinh選手のように英雄視されることは間違いないでしょう。30代以上の平均的なベトナム人の身体は細いと個人的には感じていますが、食うに困らぬ時代に入りつつある今、強い愛国心という精神に相応しい身体が世界標準に近づいて、これからではないか!と思います。
勝ったらともかく、負けたのだからタクシーなりGrab(バイク配車アプリ)なり拾えるくらいに道は空いているだろうと思っていたら、甘かった。優勝の盛り上がりに参加するために郊外からやってきた人も多かったようで、行き先も分からぬまま自前のバイクで走り出したい人たちが大暴走。
歩道にもバイク100%、合間を縫うように歩いて中心地を脱出します。
今日ばかりはベージュ色の彼らにもどうしようもありません。
1区から川を越えて4区へ。これでタクシーがなくともGrabくらいはつかまえれるぞーと思ったら、ふだん供給過多なはずのバイクがほぼない。おそらく、決勝を前に「んなことやってる場合じゃねぇ!」みたいな感じで、最初から仕事をしないと決め込んでいたのではないかと思われます。
一瞬、Uberの車両が近くを通ったんだけど、3倍価格だったのでやっぱり諦めた。
で、一時間歩いて帰った。選手の1/1000でも汗かくか…。