フランスから日本まで自転車で走るという発想からしてとんでもないんですが、あくまで活動を伝える手段として見ることに林さんの上手さを感じます。まだ見ぬ郷土菓子が、林さんの手によって日本に広まる日も遠くない。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/19
フランスから日本まで自転車で走るという発想からしてとんでもないんですが、あくまで活動を伝える手段として見ることに林さんの上手さを感じます。まだ見ぬ郷土菓子が、林さんの手によって日本に広まる日も遠くない。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/19
自転車っていいですよね!
自転車が現在の形になるまで、速度を出すために前輪が巨大化する傾向がありました。最も大きい頃には、直径が2mにまで及んだとのことです嘘です。
ま、1.5mらしいですけど。
昨日紹介したイベント『甘味完走 in HCMC』。
その主催者でありスピーカーの、林周作さん。
今回は、その林さんのインタビューを公開します。
改めて、経歴を簡単にご紹介。
***
林周作(はやし しゅうさく)
1988年、京都生まれ。
高校卒業後に大阪の辻調理師専門学校でフランスとイタリア料理について学ぶ。
それからイタリア料理店に就職するが、郷土菓子に興味を持ちはじめ、ヨーロッパなどの現地へ飛んだり、覚えた郷土菓子を日本で振る舞ったりなどの活動をはじめる。
2011年にフランスへ渡り、現地のブドウ農園や菓子屋で働いた後、2012年6月から『世界各地の郷土菓子を研究しながら自転車で日本へ帰る』というプロジェクトをスタート。
活動内容をユーモアかつユニークな文章で報告するフリーペーパー『THE PASTRY TIMES』を日本国内で発行、ソーシャルメディア上でも情報を発信しつつ、現在も帰途にいる。
***
ー最初はフランス・イタリア料理を学んでいたが、郷土菓子に興味を持った理由は?
林さん 「日本のお菓子って、すごく洗練されてるんですが、あまりに出来過ぎていると感じていて」
ネルソン「うん」
林さん 「それに対して外国の郷土菓子って、大雑把というか、めちゃくちゃ加減が面白いんですよね。それで、世界中の知らないお菓子を作りたいと思ったことが理由です」
ネルソン「その調理法はどうやって調べるんですか?」
林さん 「今ってネットで調べれば大抵のレシピは出てくるんですよ、現地の言葉でもGoogleで翻訳すればなんとなく分かりますし。日本にいた頃は、それで調べては作ってみるということを繰り返していて、現地へ行って調べたいという欲求が出てきて、100万円溜めて三ヶ月間ヨーロッパへ渡り実際に現地の郷土菓子を調べて回りました」
ネルソン「そのあとの生計はどうしていたんですか?」
林さん 「帰国後は上京して、結婚式やイベントなどで、習得した郷土菓子のテイストを残しながらもキャッチーなお菓子を作っていました」
当時、林さんが製作したお菓子1・『MEDETAI』(大きさ1m)
当時、林さんが製作したお菓子1・切ると『SASHIMI』になります。
当時、林さんが製作したお菓子2・『”Pumpkin,” clean up your mess』
当時、林さんが製作したお菓子3・『The progress』
当時、林さんが製作したお菓子4・『”The shoe” ant gathering』
ネルソン「確かに…キャッチーというか、めちゃくちゃ面白いですね」
ーそれから再びヨーロッパ(フランス)へ渡ったきっかけは?
林さん 「きっかけは震災でした」
ネルソン「あぁ…私も都内にいました」
林さん 「丁度揺れだした頃に納品するお菓子を製作中で、お菓子を壊さないよう守ることに必死でした。ギャラリーのオープニングパーティ用のお菓子だったのでどうなるだろうと思いながらも製作しましたが、やはりキャンセルが入り、それ以外にも受けていた2,3のオーダーもキャンセルになりました」
ネルソン「一年間くらい自粛ムードが続いたり、とても祝うって雰囲気じゃなかったですからね…」
林さん 「余震も収まらないので京都に戻ってはみたものの、やはりやるなら東京がいい。それならと、ビザも比較的簡単に取れるので、再び郷土菓子を研究するためフランスへ渡ることにしたんです」
ネルソン「具体的な計画や期間はあったんですか?」
林さん 「ざっくり、四ヶ月間ずつ、ブドウ農園、お菓子屋、チーズ工場で働こうと。実際に最初の四ヶ月間は、フランス西部にあるアンジェという街のブドウ農園で朝からワインを飲みながら働き、それが終わった後は自転車でベルギーのルクセンブルクまで三週間掛けて、郷土菓子を調べながら回りました」
ネルソン「アンジェからルクセンブルクって…調べてみたら700km近くありますね……」
林さん 「昔から自転車での長距離移動をしばしばやっていて、高校の卒業前にも五千円のママチャリで京都から東京へ往復したことがあったんですよ」
ネルソン「すげー」
林さん 「それから冬が近づいてきた頃に、フランス東部ではクリスマスが盛り上がるという話を聞いていたので、今がお菓子屋で働くチャンスだと考えて有名なお菓子屋15件くらいに連絡を入れました」
ネルソン「結果は?」
林さん 「お菓子屋での実務経験が無いということがネックになったようで、ほぼ断られましたね…。ただ、1件だけOKをくれたお店があって、そこで一週間の試用期間を経て働くことになりました」
ネルソン「そこで四ヶ月間?」
林さん 「いえ、店側から『ビザ期間まで働かないか』と言われて最後まで。ただ、休みが週に一度だけだったので他の地方へも行けず、当初の『各地の郷土菓子を研究する』という目的が達成出来ない。このまま日本に帰ってもいいのだろうかと思い、折角なら面白いことをしてやろうと自転車で帰ることにしました」
ネルソン「何故、そこで自転車に?」
林さん 「さっき話した通り自転車の長距離移動には慣れていたということがあります。それに、飛行機やバスなどを使って帰るよりも自転車なら注目を浴びるだろうし、そこから郷土菓子に興味を持ってもらえるならばと」
ネルソン「私自身も面白いことをやってベトナムに興味を持ってもらおうと考えているという点で、その考えにはとても共感します。とはいえ、過酷な道を選びましたね…」
林さん 「あとは、買ってしまえばやるしかないので、早速街の自転車屋へ行き『日本まで帰れる自転車がほしい』と言って800ユーロ(10万円ちょっと)の自転車を購入しました。『いつでも直しにおいで!』と熱い店員さんでしたね笑」
ネルソン「林さんも十分熱いけど笑」
ーフランスから日本まで帰る、ルートは?
林さん 「基本的にはなるべく直線ルートで考えていました。フランス、バルカン半島、クロアチア、ギリシャ、ブルガリア、トルコ、ロシアの南を通ってグルジア、アルジェバイジャン、カスピ海の南を通ってイラン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、キルギス、中国。でも実際には、フ ランス、スイス、ドイツ、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、ルーマニア、ウクライナ、グルジア、トルコ、アルメニア、アルジェバイジャ ン、カザフスタン、カスピ海の南を通ってカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、インド、タイ、カンボジア、そして今のベトナムですね」
ネルソン「横文字いっぱいや…宿泊はホームステイですか?」
林さん 「はい、毎晩道中の家でノックして…を繰り返していました」
ネルソン「怪しまれますよね?」林さん 「それが、日本人だと言うと信用してもらえるんですよ」ネルソン「へぇ…」林さん 「昔の日本人が築いてくれたイメージで、随分と助かりました」
ネルソン「何か苦労はありましたか?」林さん 「そうしてホームステイをしていたのも、最初の三ヶ月間だけでしたね」ネルソン「何故?」
林さん 「それがですね…ボスニア・ヘルツェゴビナのトゥズラという街でたまたま寄らせてもらった家のホストが、私のパソコンとカメラとiPhoneを盗んだんですよ」
ネルソン「わー…」
林さん 「朝起きたら、無い。何故だと聞いたら、『知らない、窓から誰か入って盗ったんじゃないか』と。なので警察に行こうと言ったらいきなり怒り出す。もう埒が明かないので一人で警察に被害届を出して旅を続行しました」
ネルソン「それからホームステイをやめたということ?」
林さん 「はい、それからは二ヶ月間くらいずっと安宿でした」
ネルソン「結局、盗まれたものはそのままに?」
林さん 「いや!それがルーマニアにいる頃に父からメールが届いていて、『ボスニア・ヘルツェゴビナの警察からiPhoneが見つかったと連絡があった』と。新しいものを買い揃えていたんですが、警察も動いてくれたことだしとバスを使って2日掛けてボスニア・ヘルツェゴビナに戻って2日掛けてルーマニアに戻りました。iPhoneが『どうやったらこうなるの!?』というくらいにボロボロに壊れていましたが…」
ネルソン「ヤツが…」
林さん 「警察が来たから壊したのかもしれないです」
ネルソン「それにしても、お父さんもビックリですね」
林さん 「旅のことは知っていましたが、まさかボスニア・ヘルツェゴビナの警察から連絡があるとは思わないでしょうね」
ネルソン「笑」
林さん 「それで、たて続けに宿泊まりだったということと、紛失物の代用品を買ったということもあって、グルジアでいよいよお金が尽きそうになり、宿泊まりをやめてCouch Surfingを使ってホストを探すことにしました」 ※Couch Surfingとは、無償で宿を貸してくれる人を探すWebサービス。
ネルソン「それ以外でもお金は使いますよね?」
林さん 「はい。それで、これまで自分の活動を発信していたfacebookやTwitter、そして自分のWebサイトとフリーペーパーで初めてお金の問題を話して、スポンサーを募って何とか解決出来ました」
ネルソン「た、たた他人事とは思えねー」
***
こちらのインタビュー、23時頃から2時に渡って続いたロングインタビュー。
とても面白い話だったのでそのまま公開したく、本日の前編と明日の後編の二編に分けます。
追記:書きました!
世界各地の郷土菓子を研究しながらフランス~日本を自転車で旅するサイクリスト!林周作さん(後編)
そんな林さんは、ホーチミン市での偶然の出会いにより以下の日程でイベントを開催しております。
林さんのお菓子話やこれまでの旅の話を聞きながら、6カ国の郷土菓子を楽しめるというイベントです。
***
日程: 2014年1月/
/19日16:00~(350,000 VND + wine)
/22日10:00~(300,000 VND + tea or coffee)
/25日18:00~(350,000 VND + wine)
/26日15:00~(300,000 VND + tea or coffee)
時間:約2時間
会場:La Fenetre Soleil
住所:1st floor, 44 Ly Tu Trong St., District 1, Ho Chi Minh City (Corner of Pasteur St.)
定員:各日30名限定
予約:0122 876 0312(日本語)
***