日本人でも苦労する就職活動、外国人が日本で就職するとなるとハンデを感じさせない語学力が必要です。その国で事業を展開しようと思うのであれば貴重な人材のはずですが、そうした企業はまだ多くはないでしょう。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2013/04/26
日本人でも苦労する就職活動、外国人が日本で就職するとなるとハンデを感じさせない語学力が必要です。その国で事業を展開しようと思うのであれば貴重な人材のはずですが、そうした企業はまだ多くはないでしょう。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2013/04/26
就活っていいですよね!
今や就活ルックといえば男も女もリクルートスーツですが、ある着物の卸売業では着物で着た女性を一発採用したという逸話があるそうです嘘です。
最近、Skypeでベトナム人の方と話す機会が多く、その中では日本に留学している人達もいる訳です。
長崎、大阪、横浜…彼ら三人の留学生の口から出る共通の言葉があります。
就活。
個人的に、日本の就活は苦しいものだと思っています。
エントリーシートを書けども書けども、面接を受けども受けども、帰って来て、メールボックスを開くや否や溢れ返るお祈りメール…。
親、親戚、教授、友人、そして社会が与えるプレッシャーは並々ならない。
そもそも一斉に動き出す訳ですから、通勤ラッシュや帰省ラッシュと同じで、ただただ電車に乗れなかったり渋滞に捕まったりするのは当然のことだと思います。しかも、その果てに自分で命を断つ若者までいる始末…。
よく、そうした日本の閉塞感からの脱出口として、海外移住などの選択肢が語られるケースがあります。
まだまだWebを中心とした少数派の意見ですが、最近では新卒での海外就職や学生インターンも珍しくなく、これはいずれ大きな潮流になるであろうと考えているのです。
さて、そんな状況に反する様に、日本的ルールに則って就活を行う三人のベトナム人の若き留学生達。彼らもそれぞれで状況は違います。
就活中だったり、就活準備中だったり、就活を諦めようとしていたり。
一体、彼らはどうして日本で働こうと思うのか。
そしてこのガラパゴス的とも言える日本的就活に何を思うのか。話を聞いていってみようと思います。
題して、ベトナム人留学生就活最前線。
Nguyen Viet Hai君、大阪の桃山学院大学で勉学に励む三回生です。
***
目次
ネルソン「宜しくお願いします。」
ハイ 「宜しくお願いします。」
ネルソン「まず、名前を教えてください。」
ハイ 「桃山学院大学の留学三回生のグェン・ヴィエット・ハイと申します。」
ネルソン「大学の専門分野は何ですか。」
ハイ 「経済学科経済学部です。」
ネルソン「日本へ留学しに来た、理由や経緯を教えてください。」
ハイ 「親の仕事の関係でもあるし、小さい頃に東京に5年間住んでいたし、また、アメリカと日本以外には留学したくないということもありました。」
ネルソン「何で、アメリカと日本だけなの?」
ハイ 「日本の漫画やアニメとか…アメリカの音楽や映画とか…」
ネルソン「親近感があったということね。」
ハイ 「そうですね。」
ネルソン「ハイ君の働きたい業界は何?」
ハイ 「映像関係の仕事ですね、今のところはCMなどが作れる広告業界でしょうか。」
ネルソン「その理由は?」
ハイ 「ずっと中4の頃から俳優になりたくて、そして高2になった時に、自分が絶対映画関係の仕事の為に生まれて来たんだと信じて来て。別に俳優とかじゃなくても、映画監督でもいいと思い始めたんです。つまり、映像のことをいつの間にか愛してたんです。何時間かけてもyoutubeでいろんな動画観られるし、観たことがある映画を何度観ても飽きない。」
ネルソン「じゃあ、今度は自分でガンガン撮っていかんとならんね。」
ハイ 「そうですね。それで、広告業界も同じだと思って。特にCM制作は。視聴者に刺激を与え、視聴者達の心を動かしたいと思っています。」
ネルソン「まぁ、モノが売れてなんぼではあるけどなぁ。」
ハイ 「A社のCMは感動するから、今度のCMも絶対観る価値があると思わせる。更に、このCMはグェンってヤツが作ったからまた観たいと思わせる、そんな感じです。」
ネルソン「では、ここで素朴な疑問。どうしてベトナムに帰らず、日本で働くことを選択するのか。やはり、もちろん、ネイティブの方が日本語能力は堪能な訳だよね。圧倒的多数の日本人の中で、日本での就職に挑戦する理由が知りたい。」
ハイ 「ベトナムに帰って働きたくない理由は、今帰ってもまだ何も出来ない将来の自分が見えて来たからなんです。日本で留学して来た僕のメリットはもちろん日本語。しかし、ベトナムに帰って、CM業界に入っても、日本語という道具を使うチャンスは無い。すると、4年間、こっちで留学してきた意味が無くなってしまいます。別にベトナムの広告業界に入るのなら、日本に留学してこなくてもええんちゃう?っていう。そして、卒業しても日本で働きたい理由は、日本の生活に慣れて離れたくなくなったということと、ベトナムには無い『でかくなる』というチャンスがあるということです。」
ネルソン「なるほどね、よく分かりました。そういえば先日、SPI試験対策をやっていると言っていたけど、まだ本格的な採用面接などは始まっていないということなのかな。」
ハイ 「ゼミで、採用の流れや個人面接やグループディスカッションを教えて貰ったくらいです。来年4月からは内々定の結果、10月以降は内定の結果、今年の6月からはインタンシープ行くべきとか。」
ネルソン「べき、かぁ…。色々と考えちゃうな。」
ハイ 「いや、実際は『行かなあかん』です。でも、行くかどうかはもちろん自分次第。」
ネルソン「それが、言わば日本的な、ガラパゴス就活かも知れんね。こうあるべき、そうやるべき、ということでプレッシャーを掛け合っている。もちろん、自分から能動的に行うインターンシップはいいものだと思っているけどね。」
ネルソン「まだ本格的に就活を体験していないハイ君は、この就活…いわゆる『シューカツ』に対してどんなイメージを持っている?」
ハイ 「多分、ネルソンさんは、怖いですとか、ストレスめっちゃかかってますとか、そういう答えが望んでる気がしますけど…」
ネルソン「望んでねーよ笑、素直に答えてくれ。」
ハイ 「本格的な就活を体験していないですけど、今のところは何も思ってないです。もちろん、就活を舐めている訳じゃないけど、そういうの(プレッシャー)は無い。」
ネルソン「へぇ。」
ハイ 「自信があれば何でも出来ると思っています。自分のことをちゃんと理解していたり、社会人としてのマナーや、世間の常識などがきちんと持っていれば、自信は持てると思っています。だから、今のところ、僕は自信を持てるようになるため、行動しています。」
ネルソン「ふむ…。最近、日本では、こうした『就活』を特殊だと思う声が一部で出始めてるのね。みんなが同じ様なリクルートスーツを着て、みんなが同じ様な写真を撮って、みんなが型にハマった様なことを言う。たとえばベトナムでは、ほとんどの学生が、大学を卒業して一年間おいて、それから何処かに就職するというのが一般的な流れだと聞いたことがあります。そして、欧米でも、卒業後にみんながそれぞれのタイミングで採用試験を受けるとも聞く。そうした他の国の現状を踏まえて、ハイ君はこうした、一斉スタートの日本の就活を特殊だと感じることはない?」
ハイ 「特殊ですね、『新卒を優先して採用する』っていう戦後からの各企業の採用ポリシーは。一斉スタートしない行為はデメリット。とはいえ、もちろんそういうデメリットを乗り越えて成功した人も少なくはない。ただ、この特殊性について特に文句や違和感はありません。『郷に入れば郷に従え』です。」
ネルソン「実際に試験が始まったらハイ君も体験するか、または案外体験しないでそのまま内定が出るか、分からないけど、受ける人間に対する採用枠の数的にはどうしても何社も面接を落ちる人は出てきます。不採用という結果が、『人格否定』だと受け取られ、最悪の場合だと就活疲れによる自殺という選択をしてしまう人もいる。外国で就職活動をしようとしているハイ君にとって、そういう人がいるという現状をどう思う?」
ハイ 「一言でいうと、『バカ』ですね。就活に落ちただけで、人生の扉が閉まったと思い込み馬鹿な行動をして。落ち込む気持ちは分かりますが、『就活に落ちたから何?』と僕は思います。でもそういうしょうもないことで人生を終わらせたくないです。『就活が全てだ』『社員になることが全てだ』とか思い込んで。」
ネルソン「何もそんなことで死ぬこたないのにと思う声も確かにあって、そんな選択をする前に視野を広げて他の選択肢を考えてもいいという波が来ている。就活の範囲内なら、リクナビに登録して申請してエントリーシート出して…とかせんでも、自分が良いと思うCMをつくる会社があるなら、直接問い合わせたりと方法はいくらでもある。そんなにシステマチックにやることは全然なくて、どんなルートでも使えばいいんだよという。極論、別に就職するべきタイミングでなければ就職しなくてもいいしね。ちょっとした知り合いでは、大学卒業して正社員としての就職はせずに、インターン時代にお世話になっていた会社が、海外の起業家の下で働くプロジェクトを立ち上げて、一年間インターンレベルの給料のままベトナムへ飛んだ人もいる。卒業してすぐの正社員としての就職より、今じゃないと出来ないインターンとしての勤務を選ぶ、そういった、人生の選択肢において多様性が生まれている。そもそもの話に戻ると、日本でそういった風潮が生まれつつある世の中で、日本で留学して、あえてのそうしたガラパゴス的就活を通して日本で就職しようという、ハイ君をはじめとする他のベトナム人留学生に興味を持ってインタビューさせて貰ったのよ。」
ハイ 「…。」
ネルソン「…。」
ハイ 「えっ?これは質問じゃないですよね?笑」
ネルソン「あ、うん。」
ハイ 「長い難しい文章を読んでいて、めっちゃ難しいこと聞かれるかなと心配してたんですけど、最後まで読んでみたら質問じゃなかったんでビックリしました笑。」
ネルソン「お、おう。」
ハイ 「はい。」
ネルソン「まぁ、いずれにせよ、日本の就活に縛られ過ぎずに、もっとフレキシブルに…。たとえ募集していなくても問い合わせてみるとか、能動的に動くことをオススメします。」
ハイ 「有難うございます。」
ネルソン「じゃ、最後に、就活らしく、広告業界の人達に向けて自己PRでもやっとく?笑」
ハイ 「えっ?僕ですか?今?」
ネルソン「うん。」
ハイ 「うーん。」
ネルソン「200文字以内で。」
~20分後~
ハイ 「広告の『常識』を、僕は覆します。」
ネルソン「えらい短いな!笑」
ハイ 「ちょっとルフィのセリフを真似したんですけどね。」
ネルソン「知らんけど。」
ハイ 「笑」
ネルソン「じゃ、このへんで!今日は有難うございました!」
ハイ 「有難うございました!」
***
以上です。
如何でしたでしょうか?
もうここまでお読みになられたら分かるかと思いますが、ハイ君は結構勝ち気なタイプ。
文章は少し直しているところがあるのですが、大筋は彼の書き込み通りで、チャットではなく対話で会話をしていてもほとんど淀みなく日本語を話すことが出来ます。並々ならぬ努力をしてきたと思われ、この勝ち気さはそうした根拠があってのものだとも思う。
日本の就活で学生達が詰まる要因はやはり経験不足による自信の無さが大半だと思うし、そうした数多くの日本人就活生の中で彼の性分はひょっとすれば吉と出るかも知れません。
実は私は、元々は広告業界で働きたかった人間で、学生の頃に広告学校へ通ったり本格的に目指していました。
小さな世界での話ですが、倍率が10倍の試験をパスして広告学校へ通っていたり、学生の身分としてはまぁまぁそれなりに頑張っていた方だと思っています。
しかし生来のあがり症で…面接で何一つ主張が出来ず、通らず、そのまま大学の就職課(理系)からの紹介でシステムエンジニアに。
5年間勤務したものの『人目に触れるものをつくりたい』という衝動から辞めて、あとはピタゴラスイッチの如く色んな展開を重ねて今ベトナムでこれを書いているのです。
それゆえに、ハイ君には是非とも、日本の広告クリエイティブ業界に入って欲しいと思っています。
彼自身は興味が無さそうでしたが、クリエイティブという接点で日本とベトナムの架け橋になれば面白い未来がやってきます。
そうは言っても、就活の壁はやはり高いものです。
簡単に飛び越える人もいればそうじゃない人もいる。
ハイ君が後者の状況に陥った時、一体どうなるのか、どう思うのか。
個人的に、引き続き状況を聞いていこうと思っています。
当然、これをご覧の現日本人就活の皆さんも頑張ってください。