訪日外国人が増えている中、ホーチミンの領事館に謎の行列を発見
最近は新聞・テレビ・ウェブなどあらゆるメディアで報道されていますが、訪日ベトナム人が激増しているようです。観光就労就学、あらゆるシーンで盛り上がっており、最近では日本滞在時の一人当たりの消費量でベトナムが中国を上回ったとニュースになったことも、関係者の間では記憶に新しいでしょう。
これは、今のところベトナムの観光客が富裕層が主立っており、中国ほど中間層に浸透していないだけだとは思いますが、それでも今後さらにベトナムと日本との人の往来は増えてくると思われます。同時にネガティブな問題も抱えているのですが、それはまた別の機会にでも書くとして。
ある日、facebookのタイムラインでこんな投稿を発見。
今日はいつにも増して領事館が混んでる。テト前くらいから一気に増え出して最近は敷地に収まってない。
Posted by 櫻井 岳幸 on 2015年3月8日
総領事館前に…行列…!?
こ、これは、一体どういうことだろうか。
まぁここまで書いておいて察しがついてない訳がないんだけど、現場に向かった。
平日、朝8時半、在ホーチミン日本国総領事館前に到着。
あれか…って、あれ?
めっちゃ増えてない?
この日は先の投稿から9日後、行列の長さこそは短くなっているが、倍近くに膨らんでいるように見える。
性別や年齢も特に偏りは感じられず、バラバラだ。
彼らはそれぞれどのような理由でここに並んでいるのだろう、実際に話を聞いてみることにしました。
※今回の取材は、事前に総領事館から許可をもらっています。
話を通しておかないと公安さんがワーッと来るのでご注意ください。
どうして領事館前に並んでいるのか?理由を聞いてみた
ネルソン「おはようございます!」
女性 「あ、おはようございます!」
ネルソン「日本語だ!」
女性 「はい、ちょっと…話せます」
ネルソン「今日は何のために総領事館へ?」
女性 「留学のためのビザ申請です」
ネルソン「へ~、大学?日本語学校?」
女性 「新宿にある日本語学校です」
ネルソン「期間はどれくらい?」
女性 「二年間」
ネルソン「日本で日本語を勉強して、日本で働くの?」
女性 「いえ、ベトナムに必ず帰りたいと思います」
ネルソン「必ずなんだ、戻ったら何をしたいという考えはありますか?」
女性 「日本の会社でマネージャーをやりたいと思っています」
ネルソン「なるほど…ちなみに周りのみんなはお友達?」
女性 「はい!」
ネルソン「みんな同じ学校に行くの?」
女性 「はい、みんなでシェアルームしたいと思っています!」
ネルソン「いいねー!(でも日本だとちょっと大人数か…!?)」
*
ここで通訳をお願いしている友人が、大学の後輩を発見。
彼ならいくら聞いても大丈夫だからと、つかまえて話を聞くことに。
ネルソン「おはようございます!」
青年 「おはようございます!」
ネルソン「学生ということは、留学ビザかな?」
青年 「そうです、渋谷の日本語学校に通います」
ネルソン「渋谷か~、さっきの彼女たちは新宿だから近いよ!今から友達になっとけば?」
青年 「笑」
ネルソン「学校を卒業したらやりたいことはありますか?」
青年 「日本の大学に通いたいです」
ネルソン「それから日本で仕事を?」
青年 「そうですね、マネージャーとか…あと…あと弁護士とか」
ネルソン「おぉ、どうして弁護士?」
青年 「うーん、なんとなく」
ネルソン「なんとなくかぁ」
以前から聞いていたある話を、改めて確認した。
日本語を学んでいる人達は、そのほとんどが将来の夢を「日本の会社で働くこと」と答えるケースが多い。
日本だと職業で答えることが一般的だが、ベトナムでは何をするかより何処にいるかが重視されるらしい。
マネージャーと答えることも、社内において上位の立ち位置だからと考えているのではないだろうか。
ただ日本も、具体的な理想がある人はともかく、就活生の大部分が大企業を志望する傾向がある。
職業を挙げつつもそれは建前で、似た部分はあるのかもしれない。
いずれにせよ、「日本の会社に~」ではいつか壁にぶつかるとは思うけど、それもまた必然かな。
*
お次はこの、人が良さそうな(あとハードパンチャーっぽい)おじさん。
ネルソン「今日は何のために総領事館へ?」
おじさん「日本に妻がいるんだよ!一緒に住もうと思ってね」
ネルソン「それは!奥さんはベトナム人?それとも日本人?」
おじさん「ベトナム人だよ!川崎でシステムエンジニアとして働いてるんだ」
ネルソン「そうなんだ、もうどれくらいになるんですか?」
おじさん「一年少しかな。生活も安定してきたから、子どもを連れて行くんだよ」
ネルソン「そ、それは…ものすごいターニングポイントじゃないですか!」
おじさん「まぁそうなるね!」
ネルソン「それじゃあ、おじさんも日本語を勉強しないといけないですね」
おじさん「そりゃそうさ、オハヨウゴザイマス!(日本語)」
ネルソン「それ、最初に言った方がいいですよ!笑」
奥さんが働いているから…そうか、そういうのもあるのか!本人が就労するというケースばかり考えていたけど、そこで生活の基盤をつくれば家族の呼び寄せも当然あるなぁ。ベトナムは家族の結びつきが強いし、現在の日本語学習者以上に、近い将来に在日ベトナム人はより増えるのかもしれない。
*
最後に、書類に不備があって一旦行列から外れて準備していた親子に話しかける。
お母さん「あんたちょっと!写ってあげんなさいよ!」
娘さん 「やだ!」
もちろん日本に行く方は奥の娘さん、恥ずかしいからということで写ってはくれませんでした。
ネルソン「娘さんは留学ですか?」
お母さん「そう、福岡の日本語学校よ」
ネルソン「おぉ、もし博多だったら、ご飯が美味しいって聞きますよ!」
お母さん「あらそうなんだ!それはいいわね」
親子で来ている人は少数派だったので、突っ込んで聞いてみる。
ネルソン「娘さんが親元を離れるって、寂しくはないですか?」
お母さん「んー、実は息子がオーストラリアに住んでいてねぇ。今更一人も二人も一緒だわ笑」
ネルソン「強いですね笑…娘さんには日本で働いてもらいたい?それとも帰って来てほしい?」
お母さん「それもこれも娘の判断ね」
ネルソン「お母さん、寛容ですね~」
お母さん「実はね、私も20年前に日本語を勉強してたのよ」
ネルソン「20年前…なんというか、先取り(?)してますね!」
お母さん「だから結構、自由にやってほしいと考えていてね!」
なんとなく、息子さんのこともあり、海外へ行かせることはお母さんの方針かもしれないなぁ。
大変なことも多いだろうけど、娘さんはその環境を活かして頑張ってもらいたい。
*
他に、7,8人ほどに話し掛けたところ、留学ビザと同数ほどの会社の経理の方が来ていました。 研修といった目的で社員を日本へ送り出すために、代理で来ているのだそうです。
また、顔出しNGだったので写真はないけど、観光に行くという青年もいました(超有名女性雑誌のスタッフだった)。他に、通訳の友人いわく、「テレビで観たことがある人(モデル?)がいる」とも。
この季節に行列が出来る背景には、入学や入社など新年度のシーズンでもあり、観光するならやはり桜!ということもあるのでしょう。あるベトナム人の友人は三年前に同じように留学のために並んだことがあったけれど、その時に並んでいる人は自分だけだったそうです。
今後ますます訪日ベトナム人の増加が加速する中、総領事館前の行列は春の風物詩となるかもしれません。