ベトナム南部の観光スポットであり戦跡、クチトンネルをご存知ですか?戦中に南ベトナム解放民族戦線が築いたという地下要塞、実は「サイゴンにもつながっている」という噂があるのです。だけど私、見つけてしまいましたよ!その幻のルートを!(この物語はフィクションです)
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2018/11/07
ベトナム南部の観光スポットであり戦跡、クチトンネルをご存知ですか?戦中に南ベトナム解放民族戦線が築いたという地下要塞、実は「サイゴンにもつながっている」という噂があるのです。だけど私、見つけてしまいましたよ!その幻のルートを!(この物語はフィクションです)
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2018/11/07
目次
ベトナムに住む紳士淑女なら、クチトンネルは知っているだろう!
いや、北部や中部なら知らないかもしれないか…説明しとこ。
提供:aNcari Room
クチトンネルとは!?
ベトナム戦争時に南ベトナム解放民族戦線(アメリカ映画などでよく言われる「ベトコン」、実は蔑称なので気をつけよう)が築いた地下要塞。這ってでなければ進むことのできないほど細い穴を地中深く迷路のように張り巡らせ、ジャングルへ誘い込んだ南側(おもにアメリカ兵)をギッタンバッタンのボッコボコ。最終的にアメリカという国そのものを戦場の外へ追いやった大きな要因となりました。
ここはベトナム南部の観光スポットしても定番中の定番。とくにこうしてトンネルから顔を出して写真を撮る、というのがお決まりです(写真は我です)。
©Rudolph.A.Furtado – Eget arbejde
ほかの人だとこんな感じ。SNSに上げると、これから生き埋めにされるように見えることだけが難点。
この穴でも十分狭いのですが、それでもかなり拡張されたものだという話。噂によると、ガイドに袖の下を握らせることで幻の地下四階に案内され、当時使用されていたマジモンの穴に潜ることができるという…。なんだかドラクエみたいな話ですな。最近ドラクエネタ多いけど。噂ですよ(二回言っとく)。
で、このクチトンネル。実はもうひとつ、まことしやかに囁かれる噂があるのです。それはサイゴンの…
統一会堂の地下につながっている、というもの。
冷静に考えたら、「北ベトナム側の勢力が使っていたトンネルが南ベトナム側の、ましてや当時の大統領府につながってるわけね~じゃん!」なのですが、戦略的な背景を考えると、少なくともサイゴン(現在のホーチミン市)に向かってコツコツとトンネルを延ばしていた可能性は考えられます。また、大統領府地下にもしものときに要人用の脱出ルートがあったとしても不思議じゃない。もしかしたら、そのふたつが混ざり合って生まれた噂なのかもしれないですね(敵同士な訳だから結局あり得ない理屈だけど)。
だが、しかーし!!!!
私は見つけてしまったのです!
クチトンネルからサイゴンへとつづく幻のルートを!!
これから見せる一枚の写真が、それを裏付ける証拠です!!!
いいですか?
いきますよ!
いきますぞ~~~~!?
はい。
は~い。
説明しますね(いろいろと)。
という訳で、改めて。以前からやってみたかったんですよね、これ。
どこでもクチトンネル(三体分つくった)。
なんてことない、引き伸ばした紙を、錯視でその場にあるように見せただけです。クチトンネルから顔を出している写真でこれをやれば、その場から飛び出してるように見えるのでは?と思ったのがこの動機。
シルエットだと、インドあたりの神っぽく見えませんか?世界を三日くらいで滅ぼしそう(イメージ)。
この寸尺は、プロジェクターを床に当てて投影させたものをそのまま印刷。
なお、等身大の自分を映すと、ドッペルゲンガーと向き合っているようで新鮮な恐怖感を味わえますよ。
これが、こう。いい感じ。
本当はアクリルシートなどの透明な素材に印刷したかったのだけど、時間的な問題から断念(ずっとやりたかったと言いながら動くのがギリギリだった)。印刷した紙を切り抜くという、以前デイリーポータルで書いたこれ(「日本をインドに(むりやり)してしまえ」)と同じ超アナログ手法をとった訳です。
小さいVerも用意。浮いてる印象は否めないが、まぁまぁいい感じやん?
ただ、やる前からここでひとつ懸念があった。観光スポット化しているとはいえ、クチトンネルはあのベトナム戦争の戦跡だ。この企画をすることでだれかから怒られてしまうという可能性もゼロではあるまい。ぶっちゃけ日本人から言われてもどうでもいいけど、当事者のベトナム人から言われたらマジ凹む。
ベトナム人を代表して友人のラムくんに聞いてみよう!
水嶋「どう思う?」
ラム「大丈夫ですよ!」
大丈夫だそうです。
なんて簡単にまとめてしまっちゃいましたが、ラムくんが言うには、「観光スポット化していることはもちろんだし、むしろ自分たちの勝利を自慢するくらいだからセンシティブなものとはぜんぜん違います。ゼッタイ大丈夫ですよ」とまで言ってくれました。言ったな!「ゼッタイ」って言ったな!他ならぬ君の言うことだから信じよう(「他ならぬ」の使いどころが違う)。
まぁ、実際のクチトンネルでも、仮にも敵(国)だったアメリカ人自身も地面から笑顔をピョコピョコ出しているくらいだから、大丈夫だろうとは思っていたけど。そもそもあそこ、銃の発砲体験なんて提供してるくらいだしな。戦争の凄惨さを押し出している戦争証跡博物館とは真逆のメッセージ性。それぞれの管理組織は違うのかもしれないが、ベトナムという国で見ればダブルスタンダードにも感じられる。
それはさておき、では、参りましょう~!
地元の若者が集うホーチミンの渋谷こと、グエンフエ通り。
この日は珍しく、LGBTイベントが行われていました。ベトナムは仮にも社会主義ということもあって、こうした個性を尊重する時代の兆しは大変大きなもので…す、が!今はそんなの関係ねぇ!俺はクチトンネルを堀りに(紙を置きに)来たからな。で、このあとに冒頭の写真を撮影したという訳です。
これね。
うーん。でも。錯視させる角度が重要だから、意外と難しいね、これ。
ふだんは可愛らしいコーギーが、なぜか今はとても怖い。
邪魔されるというより、小さな自分(分身)が食べられるのではという恐怖感なのかもしれない。
せっかく準備したので三体分置いてみよう。
あっ、ああぁぁ~~~っ!風で煽られる!!
レンガを持ち上げながら会釈する三つ子みたいになってしまった…。
そうか、ここは遮蔽物もない大通りだから風がそのまま吹き抜けるんだ。時間がなかったからしょうがないとはいえ、多少の重さは期待できるアクリルシートに印刷できなかったのはやっぱり痛いな。
他人(左)「これ何やってんの?」
友人(右)「この写真をほら、ここに置くとクチトンネルになるの」
他人(左)「え?あ、あぁ…」
そりゃそういう反応だよな。
結局、弾丸スケジュールということもあってホーチミンではこれくらい(もう一箇所やったけどうまく撮れなかったので省略します)。そこでちょうど二週間近くかけてベトナムを北上する予定を立てており(バイクとかじゃなくふつうにバスと飛行機です)、各地でこれをやってみることにしました。
もうお察しかもしれませんが、この企画に完成度は期待しないでいただきたい(と言って逃げておきます)。言ってみれば、私と小さい私のロードムービーだと考えてもらった方が近いかもしれません。
厚めのファイルに綴じて連れて行ったが、このようにしょっちゅう絡まっていた。
ムイネー。砂丘で有名な街です。
6年以上ベトナムに暮らしておきながら、実は初来訪。砂丘なんて局所的に見れば砂漠と変わりありません、そんなところにクチトンネルがつながってるなんてロマンあふれる(単におもしろい)じゃない。
砂がえらいこっちゃ…。
とにかくも取り出そう。
あぁっ、ダ~メだ~~!!
風が強すぎて暴れ牛…いや、暴れ水嶋に。意志を持って逃げようとしてるみたいで、本当気持ち悪い。
グエンフエ通りの比じゃない風量だぞと思ったら、砂丘なんだからそりゃそうですね。潮風で持ち上げられた砂が堆積してこうなってるんだもんな。それにしても、もしこれが飛んでいって誰かの手元にひらっと落ちてきたら、その用途が不明すぎて恐怖しかないでしょう。ワラ人形などの呪物の一種と思うかもしれない。と思ったところで小さいVerが消えていたことにいまさら気づく。いい人に拾われろよ~。
放置していたバッグもひどい有り様。
かくなる上は、砂を重しにするしかない!ということで被せてみたら、錯視の前提をぶち壊す見た目となってしまいました。ただの元気な変死体だ、こりゃ。
お次はダナン。もう自分でも笑っちゃうほど何度も通っている五行山です。好きなんですよ!
ここにはいくつかの洞窟があり、中でもフエンホン(Huyen Khong)洞窟は絶景が見られることで有名。ベトナム戦中に米軍に落とされた爆弾が穴を空け、そこをさんさんと降り注ぐ日光が通ることでこのような光の柱が現れるのだそうです。世界的にもっと有名になってもいい場所だと思うのですが…路線バス以外で定期運行する交通手段がないからでしょうかね。
これは以前やった企画でよい写真を撮れているので見てほしい(「ダナンの五行山があまりに神々しいので聖剣を突き立てたらインスタ映えした話」)。五行山の話をするたびにこのリンク貼ってる気がする。
そんな五行山でもクチトンネル。
おっ、これはそこそこ…
そこそこなんじゃない!?そこそこには!?(これで成功と言えない程度に矜持はあります)
ホイアン。4世紀前の面影を感じる旧市街は戦火を避けられ今も残る。一方でフエにあったグエン王朝の王宮は戦場にもなり、その80%に至るまでボロクソに破壊されたので、たまたまだと思うけど。
「ホイアンでは夜を見て死ね」と言われるほど、その夜景は絶景です。言われてませんが。街の至るところに飾られたランタンが光り輝き、ベトナム屈指のロマンティックあげてくれることでしょう。
そんなホイアンでもクチトンネル。
このへんがいいかな…。
すると、警戒した向かいのおばちゃんに荷物でブロックされました。
別に…おまいさん撮りたい訳ちゃうわ!まぁ、周りから見たら不審者極まりないからしょうがないか…。
観光客の足「ドカドカ!」
あぁっ!踏まないで、俺をウッカリ踏なないで~!
もう少し落ち着ける場所に移動しました。
三輪車「キキーッ!!」
おいこら、親!ホイアンは危険すぎる…!!
とりあえずこんなものか。
それにしても、紙がもうヨレヨレになってきたなぁ。
ハノイ。味わい深い旧市街の街並み。
夜になるとバックパッカーや地元の若者たちの酒盛りがはじまる、これもひとつの情景です(左下、急に版権を主張したくなったのではなく、クレジットなし版の用意が面倒なのでそのままにしてます)。
まぁ、クチトンネルを掘った南ベトナム解放民族戦線は北側なので、それがハノイにつながっていたら「攻めるどころか自陣に戻ってんじゃん!」って話なんですけどね。まったくの自陣じゃないけど。
宿泊先のテラスからの眺めがハノイらしかったので、ここで撮ることに。「外じゃねぇのかよ」というつっこみを予期して先に答えておくと…単に時間的な問題です。これも空港に向かうかなり直前で思い出して、わざわざ撮ってるくらいだったからね。「忘れんなよ」というつっこみは甘んじて受け止める。
という訳でミニ俺三羽がらすを取り出します。
長い旅路の果てに、とうとうアゴが砕けてしまいました。
出てるっちゃ出てるけど…テラスの手すりに載せるのは、錯視的には無理があったか。
単体ならまだそれっぽいかな。
そしてバンコク…はい、戻って来ました!
ラスト・クチトンネルです!
満身創痍の中、最後のパフォーマンス…ハイッ!!
以上です、お疲れ様でした(俺も、ミニ俺も、そしてあなたも)。
私「………」
総論、次はもっとちゃんとやりたいと思います。
この準備中にARuFaさんの「【検証】人間は小さくなれば、もっと動物から好かれるんじゃないか?」を友人から教えてもらったのですが、原稿を書いている今になってようやく、「ミニサイズなら錯視じゃなくパネルにして立たせてもよかったのでは?」ということに気づいてしまいました。そっちの方が錯視になるようアングルを調整しなくてもいいので、周りの風景もたぶんより取り込めてましたよね。
でも、実際にやってみて思ったのが、クチトンネルにはサイズ感も重要な要素だってこと。ミニサイズだとやっぱりいまいち。そう考えると、やっぱり等身大に近いサイズは必要だし、そうなるとパネルは無理があるし、次回こそは大きなアクリルシートにこだわってやってみたいと思います(ぜんぜん凝りてはいません)。光の反射もあるんだよなぁ~、曇り空であるという環境が大事なのかもしれない…。
ひとりチューチュートレイン(こうしてホテルでよく遊んでた)。