だれでも小中学校、なんなら高校時代でも、板書の(黒板に字を書いた)経験はあるはず。あれ、やたらとむずかしくありませんでした!?なのに先生はいつもきれいな字…きっとなにかコツがあるはずだ!という訳で、現役の先生おふたりに話をうかがいました!これを読めば明日からあなたの板書はうつくしく!
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2019/11/18
だれでも小中学校、なんなら高校時代でも、板書の(黒板に字を書いた)経験はあるはず。あれ、やたらとむずかしくありませんでした!?なのに先生はいつもきれいな字…きっとなにかコツがあるはずだ!という訳で、現役の先生おふたりに話をうかがいました!これを読めば明日からあなたの板書はうつくしく!
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2019/11/18
本記事は、2017年10月5日に「ネタりか」(運営元:ヤフー株式会社)で公開された記事を転載したものです。 サービス終了に伴い、許可を得た上で、べとまるにて公開いたします。
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小中高の学校生活の中で、黒板に字を書く、いわゆる「板書(ばんしょ)」をする機会があったかと思います。そんな板書をする際、みなさんはこう思ったのではないでしょうか?
「書きづれ~!」
というわけで今回は、
黒板ってなんであんなに書きづらいの?
どうやったら、うまく書けるの?
なぜ先生の字はキレイなの?
そんな疑問を解消するべく、現役の先生にいろいろ聞いてみたいと思います。
左は大原先生、右に見切れているのは田畑先生(顔出しNG)。どちらも中学校で教鞭をとる先生です。
目次
私「ズバリ、板書って大学で教わったんですよね?」
大原先生「教わってないですよ! 練習する人もいなかったですね」
私「いやいや、でも……ちょっとそこの黒板に書いてみてください」
ホラホラ!
ホラ~!!
私「めちゃくちゃうまい!! 絶対秘密があるはずなんですよ」
田畑先生「そういえば、私立学校の採用試験では板書があるところが多いですね」
私「それだ!」
田畑先生「あ、でも、板書というよりは模擬試験のために黒板を使用するだけで、字のうまさはそれほど関係ないはずです」
大原先生「そもそも大学で教わることは『どのように授業を構成するか』などの中身についてで、板書は教育実習で初めてぶつかる壁なんですよね」
田畑先生「そうそう。板書に関わらず、字がうまくなりたい人はドリルを買って勉強したりするみたい」
私「そうなんだ……ちょっと私や友人たちも黒板に書いてみるので、添削してみてもらっていいですか?」
二人「いいですよ!」
私と、同席していた友人二人で字を書きました。
その下に、先生のお手本を書いてもらいます。
「やっぱり違うなぁ」「力強いですよね」「まさに『海峡!』って感じ」
では、大原先生に添削してもらいましょう。
大原先生「これはハネが足りない……これはバランスが……」
一同「へぇ~!」
大原先生「コアさんが一番うまいですね。一字一字、丁寧に書けてる」
私「おぉ、ベトナム人のコアさんが。母語じゃないだけに、ゆっくり丁寧に書いているのがよかったのかな」
大原先生「うーん、待てよ……コアさん、もう一度書いてもらってもいいですか?」
コアさん「はい」
ビシッ、バシッ、と大原先生の指導が入る!
真ん中が指導後で、一番下が今まで通りの書き方で書いた文字。あれ……うまくなってない? うまくなってるよねコレ!? 「環」と「洋」がとくに!
大原先生「なるほど……コツ、分かったかもしれません!」
私「教えて教えて!」
大原先生「ちょっとこれで書いてみてください」
全員「はい!」
私「あれ……」
私「うわっ、うまくなった……というか、板書っぽくなった!!」
「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」
なんだこの状況、エヴァンゲリオンで見たことあるぞ。
これまでの書き方で書いた一番上の弱々しい字と、一番下の字を見比べてみてください。
かなり変わったと思いませんか? 例えるなら、スポーツに必要な足腰の強さが増したという印象。書けば書くほど安定して上達していく予感がする。
紙が黒板に、鉛筆がチョークになる分、力が必要になる。その力を入れるためのフォームの調整こそが、板書のコツだったようだ。
大原先生「普段は気に留めないけど、人の字を添削すると分かりますね」
私「さすがは先生」
上が大原先生、下が田畑先生の字。二人とも丁寧!
田畑先生の字は、丸みを帯びていて柔らかい印象がある。これ、性格が出そうだな。
フォーム以外のコツとしては、
「黒板上にマス目をイメージする」
「黒板を左と右でブロック分けして、全体を把握しやすくする」
「黒板消しで薄く横書きのラインをつくっておく」
「チョークの断面に常に角をつくって書きやすくしておく」
などがあるらしい。なんだかもう……職人の域だな!
ちなみにチョークホルダーもあるが、使う人は少数派とのこと。確かに、教えてもらった書き方ではかえって使いづらくなるかもしれない。
私「一字ずつキレイに書くコツは分かりましたが、何文字も書いていくうちに斜めになっちゃいませんか?」
大原先生「レイアウトですよね、それはこんな風にあらかじめノートにまとめてあるんですよ」
私「わっ、すごい!」
私「板書する内容も基本的にはこれと同じなんですか?」
大原先生「はい、授業のたびにブラッシュアップしたり、アドリブで変えたりはしますけど」
私「あ、そうか。生徒にとっては最初で最後かもしれないけど、先生は他のクラスで同じ授業をすることがありますもんね」
それでも字が上がる・下がるといったクセは先生によってあるそうで、各々の「ごまかし方」があるそうだ。写真は、「い」で下がったから、「う」で上げてごまかした例。
こちらが、大原先生が普段使っているチョークの数々。
私「1回の授業ですべて使うわけじゃないですよね? 基本は何色なんですか?」
大原先生「白、赤、青、黄……4色ですね」
私「チョークをたくさん使うのはどんなときですか?」
大原先生「私は社会科を担当しているので、地図の色塗りで必要になってくるんですよ」
私「あぁ! 納得です」
社会科は使う色が多い!
大原先生「実は2年ほど前に、チョーク関連で大変なことがあって……」
私「え、何?」
大原先生「羽衣(はごろも)チョークという製品が軽くて発色も一番良かったのですが、廃業してしまったんです」
私「あらー!」
田畑先生「最近は電子黒板も増えているので、その影響があるのかもしれません」
左が他社製品、右が羽衣チョーク。
実際に書き比べてみた。上が羽衣チョークで曲線が滑らか。下の他社製品は曲線が途中で引っかかり、途切れてしまっている! チョーク素人(?)の私でもはっきりと違いが分かった!
大原先生「教頭がプールしていた羽衣チョークをくれたので、当分は大丈夫ですが……」
私「悲しい話題だけど……教頭先生、何気に英雄ですね!!」
そのほか、日々触れるチョークにまつわる悩みは多く、授業のたびにチョークの粉で手がパサパサになるので、授業後、先生専用の洗面所には手を洗う先生たちの行列ができるらしい。
私「ダメな板書ってありますか?」
大原先生「字がうまく書けないからって何度も消すのはダメですね」
田畑先生「あれね、良くないよね」
私「え、なんで?」
大原先生「書き直されると、生徒の集中力が切れるから。授業の本質は字の良し悪し以前に教えることですから」
田畑先生「『渋滞』させちゃいけないんです」
私「はー。意味は分かるけど、『渋滞』って言葉がさらりと出てくることがおもしろい。もはや業界用語ですな」
大原先生「生徒にも目や耳で得られる情報量や速度に差があるので、全体の状況を見ながら進行しないといけません」
田畑先生「授業は真剣勝負ですからね」
【先生あるある1】手頃な空き缶をチョーク入れにする。これはもともとキャンディーケース。
私「では、お二人にとって『いい授業』とはどのようなものですか?」
大原先生「聞く時間と書く時間のバランスが取れていて、メリハリがある授業だと思います! 例えば、『今は書く時間だよー』と伝えるために、あえて同じ語句を復唱したりする。あと、うまい先生はやはり生徒を飽きさせないと思います。授業を進行させる構成がうまいのはもちろん、おもしろい小話をたくさんして、それが学ぶ内容に収束していく」
田畑先生「逆におもしろくても授業に関係のない話ばかりだと、生徒が『この先生の授業は息抜きだ』と聞かなくなりますね」
私「確かにそれは、真剣勝負だ……」
【先生あるある2】チョークで手が荒れるのでハンドクリームは常備。
いかがでしたでしょうか!
板書にはやはりコツがありました。教育関係者の方にとっては常識だったかもしれませんが、そうでない方にとっては意外な事実だったのではないでしょうか。
学生のときにまるでうまく書けなかった板書が、教えてもらったコツにならって書いたら、急に自分の字ではないような力強さが生まれてかなり驚きました。ただ、肘から手首まで常に浮かせることになるので結構疲れます。先生は大変だ……。
もしこの記事を小中高生が読んでいたら、ぜひ学校で試してみてください!
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編集:ノオト