フランスから日本まで自転車で走るという発想からしてとんでもないんですが、あくまで活動を伝える手段として見ることに林さんの上手さを感じます。まだ見ぬ郷土菓子が、林さんの手によって日本に広まる日も遠くない。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/20
フランスから日本まで自転車で走るという発想からしてとんでもないんですが、あくまで活動を伝える手段として見ることに林さんの上手さを感じます。まだ見ぬ郷土菓子が、林さんの手によって日本に広まる日も遠くない。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/20
フランスっていいですよね!
フライドポテトをフレンチフライと呼びますが、フランスでそう呼ぶとブン殴られるそうです嘘です。
流石にこのテーマも三回目となると、拡げられるネタももう無くなってきた…。
前回から引き続き、林周作さんのインタビューです。
詳細は前回でも前々回でも記事を読んでもらいたいですが、簡単に説明すると…。お菓子を研究しながら旅をしている人です。
簡単過ぎましたが、いずれにせよ過去記事を読んでねってこと!
***
ーホームステイをする時に言葉の問題は無いのか?
ネルソン「滞在した国を聞くと、誰も英語が出来る国ばかりじゃないですよね?」
林さん 「そうですね、一応現地の言葉で自分を説明する文章は用意していきますが、それ以外は基本的にボディランゲージです」
ネルソン「一番言語が通じなかった家は何処ですか?」
林さん 「キルギスです」
ネルソン「キルギスの言語は?」
林さん 「キルギス語ですね…ホストは、ロシア語しか話せませんでした。しかも、家にはネット環境も無いのでGoogle翻訳も使えない。そこで面白かったのが、その家には英語とロシア語の辞書はあったんですよ。それで何とかコミュニケーションは取れました」
ー出会ったお菓子の数はどれくらい?
林さん 「250~300個くらいです」
ネルソン「す、すげー…」
林さん 「トルコとドイツで70個ずつ、あとはその他の国のお菓子です」
ネルソン「全て製法を記録?」
林さん 「印象に残ったお菓子は(聞ければ)レシピを残すか、帰国後に作りたいお菓子リストに加えます。名前と味さえ分かれば、ネットでレシピを探して再現は出来るので」
ーこれまでに最も美味しかったものは?
林さん 「難しいですね…すごく難しい……う~ん」
ネルソン「3つ…いや、5つでも!」
林さん 「私は、日本でも同じ店に二度行くことはほとんど無いのですが…」
ネルソン「サラッと言ってますが、すごいこだわりですねそれ」
林さん 「それでももう一度食べたいと思ってそのお店に行ったものがあります」
ネルソン「何!」
林さん 「『ボザ』と いう飲み物です。中央アジアでかつてオスマン帝国の支配下にあった国で伝わっていて、穀物を発酵させて絞り出した飲み物。発酵しているので、プチプチして いて、穀物の甘みがよく出ています。セルビア、ルーマニア、トルコ、キルギス、ボスニア・ヘルツェゴビナで飲みました」
ネルソン「うまそう」
トルコのボザ。
キルギスで作るボゾ(呼び方が違う)。
林さん 「トルコの『カトメル』。 トルコ人でも知らない人がいるマイナーなお菓子です。アンテプという南東にある街がピスタチオの名産地で、そこの朝食でよく食べられます。小麦粉を練って 裏の新聞紙が透けて見えるくらいに薄く伸ばし、ピスタチオと砂糖とカイマック(牛乳を熱して放置し、その上澄みだけをすくい取ったクリーム)を包み込んで オーブンで焼いたお菓子です」
ネルソン「本当にうまそう」
カトメル、アンテプのカトメル専門店にて。
牛乳と合わせるのが朝の定番。
林さん 「ウクライナの『メドヴィク』。バーの店員が赤ワインと一緒に食べなよと勧めてきたもので、スパイシーで蜂蜜の香りがする、クルミとミルクのクリームです」
ネルソン「マジでうまそう」
メドヴィクとグルジアワインとバーテンダー。
メドヴィク。
林さん 「カンボジアの…名前は分かりませんが、もち米をココナッツミルクで炊いたものに、ねっとりとしたココナッツクリームを乗せて、その上にドリアンを乗せたものです。全てにクセがあり、それが絡み合っていてとても美味しかったです」
ネルソン「全く以てうまそう」
あ、これチェーだ。
林さん 「最後が、ドイツの『ラオゲンクロワッサン』。 プレッツェルは焼く前に化学的な液体(水酸化ナトリウム)に浸してから焼くのですが、元は毒性のものだけれど焼くことによって塩っぽい味と独特な香りだけ が残ります。この液体がラオゲン液と呼ばれ、それをクロワッサンに浸けて焼いたものがラオゲンクロワッサンです。プレッツェルの独特な香りとリッチなバ ターの香りが混ざり合って、食感がサクサク」
ネルソン「際立ってうまそう」
ラオゲンクロワッサン。
ー反対に、美味しくなかったものは何?
林さん 「美味しくなかったというか臭かったもので、カザフスタンで飲んだ、ラクダのミルクを発酵させたお酒です。冷やすと美味しいけど、常温で飲むとこれが臭い。ただ、何を食べるにしても、現地で受け入れられているものなので美味しくないとは意味が違いますね。自分の舌に合わないというだけです」
ーこれまでに最も良かった国は?
林さん 「既に登場していますが、キルギスです。非常に人が親切な国で、国内の移動がほとんどバスだったので自転車を空港で預かってもらえないか空港の職員に聞いたんですね。そしたらダメだと、しかしその二言目に出てきた言葉が、『ウチならいいよ』と。それから、彼の家に泊まることになりました」
ネルソン「ベトナムじゃ…いや知っている内のほとんどの国で無さそうだなぁ」
林さん 「3~4日はその家で泊まっていたんですが、彼の奥さんの両親が『ウチにおいで』と言ってくれたので、寄らせてもらうことに。そこは標高2000mにある村で、大自然の中で二週間過ごしました」
ネルソン「標高2000mという時点で大自然を感じます…」
林さん 「近くに放牧地があって、3,4回連れて行ってもらいました。そこでは、羊を囲んで、みんなでお祈りして殺して全て食べます。木から火を起こすこともそうだし、羊を殺す体験も初めてでした」
ネルソン「羊を殺す…!」
林さん 「みんなが手足を抑えて、自分の両膝で羊の頭を挟んで頸動脈をナイフで切るんですよ。血が流れていって、次第に力尽きて死んでいきます」
ネルソン「羊を殺したパティシエなんて林さん以外にいるんでしょうか。ちなみに、家に電気は通っていたんですか?」
林さん 「はい。でもガスが無くて、お風呂に沸かすために電熱線を使うんです」
ネルソン「で、電熱線?」
林さん 「そう、コイルになっている電熱線を水の入ったバケツに突っ込んでお湯を沸かします。それで出来た湯を浴びると」
ネルソン「世界は…広い」
ーこれまでに最も辛かった国は?
林さん 「インドですね…滞在した三ヶ月間の半分はお腹を壊していました。とにかく過酷」
ネルソン「具体的には?」
林さん 「まず現地の風習に慣れようと思って、右手でご飯を食べたり、トイレは左手を使って拭いたりしていました。雨が降ったら流れる先が無く必ず氾濫していて、何より道中には(神聖なものなので)牛がたくさんいるのですが、牛が野良犬のようにゴミを食べている場面は衝撃的でしたね、忘れられません」
ネルソン「野良牛とは新しい…」
林さん 「トイレ事情は最悪で、夜行電車に乗っていて朝方になって車窓から外を見ると、みんな線路にしゃがんでうんこしてるんですよ」
ネルソン「線路にしゃがんで?何で??」
林さん 「出したものを電車が持って行ってくれるからだと思います」
ネルソン「世界は…広い」
林さん 「それにお湯が出ないのは当たり前、そして電車がめちゃくちゃ込みます」
ネルソン「まぁ、それについてはベトナムもある意味で同じかも」
林さん 「でも、インドの人達は思っているよりも全然優しかったですね。レストランでちょっとだけ話したお兄ちゃんが、何にも告げずに帰ったと思ったら既に自分の会計をしてくれていたり、店員も黙っていれば分からないのにそれを正直に話してくれたり、人は良かったです」
ー今後のルートと展開を教えてください
林さん 「このまま2月頭からハノイへ自転車で縦断します。それから、香港、台湾に渡って、中国に戻り、上海を経て、今から四ヶ月後には帰国する予定です」
ネルソン「これまでの道のりを聞いているとあとちょっとという気がするから不思議。自転車でベトナムを縦断するというだけでもとんでもないことなんですが…。そのあとは?」
林さん 「本を出版する予定があるので、資金を作った後には自分のお店を持ちたいと思っています」
ネルソン「世界各地で300種類近くのお菓子を食べてきたパティシエの店なんてそうありませんね…」林さん 「そうですね、それが武器だと思います」ネルソン「ちなみに、場所は?」
林さん 「(生まれの)京都です」
ネルソン「海外で展開する予定はありますか?」
林さん 「2~3年後に任せられる人が出来たら、お店を持ちたいと考えています、特に東南アジアで展開したいです」
ネルソン「どうして東南アジアに?」
林さん 「外国文化に興味があり、受け入れる文化があるからです。トルコ人はトルコが好きで、ボスニア・ヘルツェゴビナも同様で、国籍料理のお店はあるにはあるけどあまり求められていないという印象があります。それに対して、ウクライナのキエフやグルジア、特にバンコクやホーチミンなどの東南アジアの街には既にお店も多く受け入れるという土壌を感じます。それに料理が美味しいし、過ごしやすい」
ネルソン「他には何か計画はありますか?」
林さん 「あとは…アメリカをキャンピングカーで回るとか、危なそうですが南アメリカを旅するとか、アフリカも北欧も回っていませんし、何処かのタイミングで行くかもしれません」
ネルソン「それでもやはりお菓子は?」
林さん 「はい、何処へ行ってもお菓子の旅ですね。それこそが目的なので」
***
如何でしたでしょうか。
二回に渡っての、世界各地の郷土菓子を研究しながら自転車で旅をする林周作さんのインタビューでした。
そんな林さんは、ホーチミン市での偶然の出会いにより以下の日程でイベントを開催しております。
林さんのお菓子話やこれまでの旅の話を聞きながら、6カ国の郷土菓子を楽しめるというイベントです。
***
日程: 2014年1月/
/22日10:00~(300,000 VND + tea or coffee)
/25日18:00~(350,000 VND + wine)
/26日15:00~(300,000 VND + tea or coffee)
時間:約2時間
会場:La Fenetre Soleil
住所:1st floor, 44 Ly Tu Trong St., District 1, Ho Chi Minh City (Corner of Pasteur St.)
定員:各日30名限定
予約:0122 876 0312(日本語)
***
***
そして、
林さんは、
次なるお菓子を求めて、
再び自転車に跨がり旅を続ける…。
※少なくともイベントが終わるまではホーチミン市にいます。
前編はこちら!