ベトナムに日本の書籍は流通しておらず、存在するとすればほぼ個人の持ち込み。「Utopia Cafe」は店長の江渕さんがコツコツ集めた漫画が2000冊以上あり、在住日本人や日本好きのベトナム人にとって貴重な場所です。今回は、その江渕さんにインタビュー。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2012/05/20
ベトナムに日本の書籍は流通しておらず、存在するとすればほぼ個人の持ち込み。「Utopia Cafe」は店長の江渕さんがコツコツ集めた漫画が2000冊以上あり、在住日本人や日本好きのベトナム人にとって貴重な場所です。今回は、その江渕さんにインタビュー。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2012/05/20
インタビューっていいですよね!
よくQ&Aとありますが、あのAはAnswer(答え)でなく、映画俳優や女優に対してのインタビューから使われたもので、もともとはActor(俳優)の意味を表す言葉だった様です嘘です。
目次
前回のUTOPIA CAFEへの取材に引き続き、オーナーの江渕さんにインタビューを致しました。
思いのほか?面白くなってしまった!
ご一読ください。
***
江渕さんです。
ネルソン「手の形をこう…ろくろを回す様にして貰っていいですか。」
江渕さん「こう?」
以下、ネルソン→ネ、江渕さん→江、でお送りします。
ネ「まず、ユートピアって始めてどれくらい経つんでしたっけ?」
江「2006年から。」
ネ「前に聞いたことがあったと思うんですが、江渕さん自身は10年くらい経つんですよね。」
江「そうです、旅行会社3年。はじめはネルソンさんの様にプー。」
ネ「(苦笑)」
江「在住8ヶ月くらいで、慣れたところで旅行会社→カフェ→カフェ+連絡事務所長。の経歴。」
ネ「そういえば名刺にそんな肩書きがありましたね。無職でベトナムへ渡ろうとした理由は何だったんですか?」
江「ベトナムブームでチャンスだと思ったから。」
ネ「10年前だと僕は18歳か…ベトナムブームだったって初めて知りました。」
江「大学でベトナム通史を専攻していて、どうしてもベトナムに来たかったんだよね。若かったなぁ。」
ネ「なるほど、もともとベトナムへの縁があったんですね。でも、就職でベトナムへ渡ろうとは思わなかったんですか?いや、そもそもその就職の口自体がほとんど無い時代だったのかな。」
江「うん。初めは語学を勉強して院とか行こうと思ったんだけど。」
ネ「じゃあ、とにかく行って、文化や言語を覚えて、そこで就職先を探そうという算段だったと。」
江「はい。」
ネ「ちなみに、ベトナムブームってどんなのでしたか?今ブームって聞くと単にテレビで取り上げるとか、そういうのを想像しちゃうんですが。」
江「えーと、その当時は第二次ブーム。女性旅行客がすごく増えた。」
ネ「今ガイドブックを手に取ると、アオザイとかベトナム雑貨とか可愛い扱いで取られているけど、まさにそれが始まったという?」
江「そうそう。最初にベトナムに来た時、それを感じたので、旅行会社への就職を漠然と考えていた。」
ネ「日本人向けの商売となると、(当時は)旅行会社が一番とっつきやすそうですもんね。」
江「うん。」
ネ「算段ありのベトナムニートだった訳ですね。」
江「旅行会社に就職しようというのは、滞在してからだよ。来る前は真っ白、そういう意味では貴重な八ヶ月だよ。」
ネ「なるほど。」
江「逆に、いきなりぽっと出の人は失敗すると思う。現地事情や相場を知らずに。」
ネ「あー、それ基本的ですけどすごく大切ですね。」
江「失敗したり、ぼったくりされるのがたくさん。」
ネ「ベトナムブームだったってことは、江渕さんの他にも多くの日本人が来ていたと思いますが、その中でもその『ぽっと出』な人もいたんですか?」
江「たくさんいたよ。」
ネ「カフェも、残ってるのはケセラとユートピアくらいって言ってましたもんね。」
江「長いのはね。今のカフェは知らん。何処にあるかな?オレが知らないだけかも知れないし…。」
ネ「そういう意味では、今はもしかしたら第三次ベトナムブームかも知れません。旅行や雑貨が熱いというところから、オフショア開発の拠点としてベトナムが注目されている。インドネシアやミャンマーもかも知れませんが。」
江「そうだね、その間に不動産と株(投資)もあったけど。」
ネ「あぁ、確かにこっちで不動産をやっている日本人は多い。」
江「うん。」
ネ「しかし、どういう経緯でカフェを始めることになったんですか?」
江「えーとね、最初のパートナーが幼馴染で、彼もベトナムで何かやりたいと。」
ネ「へぇ。」
江「その時にこのカフェの前身の日越喫茶[ひろば]というのがあって、ここのオーナーが日本に帰るので引き継がないかって言われた。」
ネ「ほーーー。そういうきっかけが転がってるって、面白い。日本だともっと身近な…身内や親戚とかにまず当たりそうですけど、ベトナムでの狭い日本人コミュニティだからこそ、そういうこともあるんでしょうね。」
江「ですよね。その当時はレタントンの物件も安かったし。一ヶ月750ドル。」
ネ「今だと大体2000ドルでしたよね。やっす…。」
江「いや、表通りだからあそこは3500ドルになってるよ。ヘタすると4000ドル。」
ネ「32万円くらいかな…日本でもそれくらいの物件ありそうですね。その頃には漫画はあったんですか?」
江「少ししかなかった。」
ネ「マンガ喫茶を始めようと思ったきっかけは?」
江「他のカフェとの差別化。どうやって生き残ろうかと、カフェなんてホーチミンにはたくさんあるし。かといって俺が特別料理とかの才能は無いので、漫画が良いかなぁと。」
ネ「検閲が義務のベトナムでは、ここまで集めるのは相当苦労したんでしょうね。3000冊くらいでしたっけ。」
江「うん、文庫が1000冊くらい。」
ネ「それだけ時間を掛けてきただけに、今では揺るぎない差別化を図れてる。」
江「だけど、油断はできないからね。」
ネ「これからマンガ喫茶以外にやっていこうと思っていることってあります?」
江「うーん、ベトナム人相手の漫喫を確立したいなあ。」
ネ「なるほど。日本の漫画でですよね。」
江「ベトナム語の翻訳バージョンで。以前あったんだけど、潰れた。」
ネ「その漫画、買い取れなかったんですか?」
江「とっくにHOUSE FOR SALEになっていた…。」
ネ「あちゃー。」
江「いやーこれがね、ベトナムって本を在庫していないんだよ。たとえばコナンの40巻が発売するでしょ。」
ネ「はい。」
江「そうすると、その時
に40巻は何処の本屋でもあるけど、1~39巻は無い。」
ネ「Oh…」
江「大元の出版社に問い合わせるしかない。そこも在庫持ってるか分からず…。」
ネ「でも、今の日本語の漫画があるという状況だけでも、潜在的なベトナム人のお客さんはいると思いますよ。前に日本語の話せる学生に話したら、ものすごく興味を持ってました。」
江「へええ。絵だけ見る人がいたな、時々。」
ネ「日本人は知ってて当然だけど、そこと比較すると一般にベトナム人が知るルートはそんなに多くは無さそうですからね。」
江「ベトナム語も少しは入れようと思う。カップルで来た時、彼女が暇しないようにしようかと。」
ネ「ベトナム人の彼女を連れて漫喫とは、かなり亭主関白な気もしますが笑。」
江「はは。でもケースとしてベトナム人を連れて来た時、その人が暇しないようにしたいな。」
ネ「なるほど。」
江「ベトナム語訳の、漫画の古本屋さんとかも巡ってみたい。」
ネ「あるもんなら僕も取材に行ってみたいですね。でも、在庫が無いってことは古本屋は存在するってことか。反対に無ければビジネスチャンス。」
江「聞いてみよう。」
ネ「行く時は連絡ください。ついて行ってみたい。」
江「ベトナム人の店員も、日本の翻訳漫画は区別出来ないと思うけどな。それぐらい圧倒的だよ。」
ネ「何処にもまとまっていないということですか…。」
江「ベトナムの漫画は幼児向け程度だな。大人が読むような漫画あるじゃん、島耕作とか。」
ネ「青年誌ですね。」
江「そういう漫画はほとんど無い。ベトナム市場の漫画って、幼児向け程度しかない。」
ネ「少年誌はどうなんですか?ユートピアでNARUTOの翻訳版がありましたけど。」
江「そうそう。そういうのはあるけど、翻訳ものばっか。ドラえもんは1000万部突破したらしいよ。」
ネ「あぁ、ベトナム人がつくる漫画は児童向けのものが多いと。」
江「そう。ネルソン君、育ててよ。」
ネ「僕編集の知識皆無っすよ笑。」
江「ははは」
ネ「あーでも、漫画の描き方を学びたいっていうニーズはあるって聞いたことがあります。その講座を企画している人もいました。」
江「ぼちぼちベトナム語の漫画を集めて、ベトナムの雑誌にも宣伝しようかな。将来的には。」
ネ「いいですね、面白そう。」
*
江「ローカル(ベトナム人)向けの漫喫を考えているんだけどね。日本人は限りがあるので。」
ネ「問題は、ベトナムの古本屋でどれだけの翻訳版が回収出来るかっていうことですか。」
江「そう、それと運営方法。日本人は時間制というのは分かるけど、こっちの人は無いからね。」
ネ「ベトナムで日本人向けの漫喫をつくるのと、ベトナムでベトナム人向けの漫喫をつくるのじゃ、大違いですからね。前者は単なる既存の慰安サービス、後者は市場をつくる。」
江「前のベトナム人喫茶の失敗は、時間制にしなかったこと。」
ネ「回転率が悪かったと。」
江「収益が出なかった。」
ネ「ローカル向け料金では、回転が命でしょうからね。」
江「うちは食事とかあるし、日本人は長居すると頼んでくれるので、レタントンの客は良いと思う。ローカルはきついと思う。」
ネ「頼まないで長居するとバツが悪い、ってのもある意味で日本人の特性でしょうし。」
江「うん。」
ネ「最初の話に戻りますが、そういう意味でローカル向けのサービスは、事前にこっちの習慣を体得した上でないと失敗するってことですね。」
江「そうです。日本人向けのサービスも、こっちの日本人の習性を調べないといけない。」
ネ「なるほど。日本にいる日本人、ベトナムにいる日本人はまた違う。これは金言かも。たとえばどんなところがってありますか?」
江「そうですね…ドンに慣れているので、日本円で大したことが無いけど値上げとかで気を使ったり。」
ネ「僕はサラリーマン時代の貯金で生き永らえていますからね。収入の目途を半年以内には何とかして立てたい。」
江「システムを組める人がいないから、ネルソン速攻で就職は出来そうだね。」
ネ「実は、このブログ自体、勉強と就職活動を兼ねていたりします。まだシステムは盛り込んでいないけど。はたから見れば遊んでるって、理解されにくい生き方かも知れないですけどね。」
江「へぇ、会社はまだ作らない?自分で。」
ネ「性格上やるなら自前でやりたいですけど、何をするか考える材料と人の縁を集めるための第一歩というところです。このブログが。」
江「まあねえ、叩かれなければいいけどね。●●●(ホーチミンのいわゆる裏サイトです)。」
ネ「言ってることは分かります苦笑。でも、僕は誠実なニートです!」
江「ははは。商売は何が当たるか分からないからね。ベトナム人でアニメ好きな人とか知ってる?日本の漫画が好きだとか。」
ネ「一度しか会ったことが無いけど多分知ってます。知らなくても、辿れます。」
江「へえ。やっぱり時間が欲しいなぁ。」
ネ「協力出来ることなら協力しますよ。」
江「うん。また考えます。」
ネ「聞きたいことは以上です!有難うございます!最後に、これを見てユートピアへ行ってみたいと思った人への押しの一言を!」
江「一人でゆったりしたい人向けの店だと思いますので、お気軽にご来店ください!私を見たら、お気軽に声を掛けて下さい。」
ネ「色々お話有難うございました。これ、すごく面白くなると思います。畳のやつも結構知らない人にたくさん見て貰ったんですが、このインタビューもそうなるかも知れない。」
江「畳だけじゃなくて、日常生活で欲しいものをどんどん解決してあげれば。解決コーナー。」
ネ「はい、そのうち依頼を募集しようかなと思ってますよ。」
江「うん、面白いと思う。その過程のレポートとか。たとえばね、日本の会社から頼まれたものを発見するまで。」
ネ「ベトナムの探偵ナイトスクープ的なものもいいですね。依頼者として出演したこともあるし(関係無い)。」
江「前、椅子の布を探した時、バイタク親父→市場→市場で通りかかった親父→布市場発見→同じ型が無くて→布卸しや同じ型を見つけるのに半日掛かった、とか。」
ネ「いいですね、ベトナム人の学生と一緒に回るとか。」
江「うん。」
***
おしまい!
今後も引き続き色んな人にインタビューをして回りたいと思います。