サーカスの舞台裏を覗くってとても贅沢ですよね。AO Showは演者による肉体を駆使したアクロバティックな動きが魅力ですが、日々の努力の賜物なんだなと感じます。これを見れば、本番で3倍は楽しめる。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/07
サーカスの舞台裏を覗くってとても贅沢ですよね。AO Showは演者による肉体を駆使したアクロバティックな動きが魅力ですが、日々の努力の賜物なんだなと感じます。これを見れば、本番で3倍は楽しめる。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2014/01/07
サーカスっていいですよね!
サーカスによく登場するピエロは、もともとは中世ヨーロッパなどの時代において特権階級にある人物の従者であり、君主に向かって無礼なことを言っても許される唯一の立場だったそうです本当です。
どうでもいい話なんですが、原作版の『風の谷のナウシカ』に出てくる道化が君主のヴ王に対してズケズケと物を言っていた理由がやっと分かった…そういう立ち位置だったのね。いや、ほんとどうでもいいけど。
さて、昨年6月頃にべとまるで紹介した、ホーチミン市民劇場で開催中の現代サーカス『A O Show』。
当 時は、たまたまチケットをいただく機会があって記事を書きましたが、このたび日本人スタッフの方が着任されたということもあって、べとまるへ正式に取材を ご依頼いただきました。そこで今回は、前回よりも踏み込んで、A O Showの舞台裏や、監督や登場人物の皆さんへのインタビューを行っています。
かなりのボリュームになったので、前編の『稽古風景&役者とミュージシャンへのインタビュー』と、後編の『監督へのインタビュー』の2編に分けております。後編の最後では、A O Show観覧チケットのプレゼントもありますよ。くれぐれもお見逃しなく!
はい!
ホーチミン市在住者にとってはお馴染み、市民劇場です。
フランス統治時代から存在している建造物で、現代に生きる貴重なコロニアル建築様式。
現在はもっぱらA O Showの公演で使われていますが、コンサートやバレエなどでも利用されています。
この周辺はホーチミン市の中心部で、
大通りの起点に大型建築物を配置するという、フランス式の都市設計の名残を感じさせます。
市民劇場の脇にはA O Showを紹介する看板がありました。
この時、時間は15時…開演までまだ3時間もありますが、入ってみましょう。
エントランスに入ってすぐに目につくのは、この籐を編み込んで作られた工芸品。
小魚を捕るためのものだそうですが、今はあまり使われていないようです。
そう、A O Showは、昔と現代のベトナムの情景が随所に散りばめられた現代サーカス。
こうした小道具から大道具まで、ベトナムの伝統的なものが多数登場します。
ホールに足を踏み入れると、上品で重厚な雰囲気が場を包みます。
舞台前から入口へ、役者の視点から見た世界。
舞台上では役者達が輪になって談笑していました。
なお、今回、A O Showのブランディングの都合上、舞台上の画像は全て白黒加工しております。
後日いただいた稽古写真を、ご紹介致します。一部、一般初公開です。
それでは、役者の方にお話を聞いてみましょう!
※A O Showで役者を務めるLinhさん(左)とTinさん(右)。
役者・Tinさん(男性)・1987年生まれ
ーサーカスの道に入り、A O Showと出会うまでの経緯を教えてください。
Tinさん 「私は、特別サーカス団に所属していたり学校に通っていた訳ではありません。独学でダンスを学んでいて、仲間と一緒にアクロバットダンスやパルクールをやっていました」
※パルクールは、フランス発祥の、周囲の環境を活かしながら、走る・跳ぶ・登るなどの移動動作で体を鍛える方法。
ネルソン「どれくらいの期間を?」
Tinさん 「3年間くらいですね。ただ…やったり、やらなかったり、連続はしていませんが」
ネルソン「その中で、どのようなきっかけでA O Showを知りましたか?」
Tinさん 「所属していたグループのリーダーが、『新しく立ち上げられるサーカスが団員を集めている』という話を聞きつけ、メンバーへ出てみないかという声が掛かって、それがA O Showだったという訳です。そして、私と仲間が挑戦しましたが、最終的に私だけが残りました」
ーA O Showの中でも最も注目してもらいたいシーンは何ですか?
Tinさん 「はじめの方に出てくる竹橋を渡るシーンでしょうか、これはベトナムの農村の風景をとてもリアルに描いていると感じます」
ネルソン「具体的には?」
Tinさん 「橋の上で髪を結う女の子が登場し、木に見立てられた竹の棒を男の子が登っていって、その子に果物を渡す。私がそこが好きで、柔らかく穏やかな気持ちになります。なお、私はここで、男の子が登る竹の棒を支えています」
ーフリーの日は何をしていますか?
Tinさん 「公演がなくても別の場所で練習を積まないといけないので、全く何も無い日というのは少ないですね。身体を動かさない日が続くと鈍ってしまうので」
ネルソン「その上で、もしフリーがあればどう過ごします?」
Tinさん 「そうですね…以前から参加していたアクロバットの練習場へ行ったり、あるいは何か面白そうなイベントがあれば見に行くようにしています。私は生まれも育ちもホーチミン市ですが、今でも常に新しいものを探し求めています」
役者・Linhさん(女性)・1994年生まれ(A O Showで最年少)
ーサーカスの道に入り、A O Showと出会うまでの経緯を教えてください。
Linhさん「両親は芸術分野の人ではなかったのですが、昔から私をサーカスへよく連れて行ってくれていたんです。そういう環境で育った訳ですから、自然と『いつか自分もあの舞台に立ちたい』と思うようになりました」
ネルソン「それで、いつ頃、サーカスの道へ?」
Linhさん「10歳です」
ネルソン「早いですね…サーカス団に所属を?」
Linhさん「いいえ、まずはサーカス学校へ。そこで5年間学んだ後に卒業し、家族から離れて自立した生活を送りたいと考え、ホーチミン市へ行く決意を固めました。最初、家族は反対したけれど、最後には送り出してくれましたね」
ネルソン「ホーチミン市でもすぐにサーカス団へ所属したのですか?」
Linhさん「はい。入団して、早速3ヶ月後には公演で台湾を回りました。一度ホーチミン市へ戻った期間を挟んで公演は9ヶ月間続き、それが終えてから、サーカス団からA O Showが団員を募集しているという話があったんです」
ネルソン「A O Showに参加しようと思った決め手は何ですか?」
Linhさん「コンセプトが新しく、とても魅力的だったというところです。団員の一人として参加するようになってからは、A O Showの新しさに触れる日々を送っています」
ーA O Showの中でも最も注目してもらいたいシーンは何ですか?
Linhさん「二つあります。一つは、竹橋のシーンです。これは農村部の暮らしの様子が忠実に表現されていて、以前は自分も登場していたので思い入れがあります。もう一つは、中盤で私が白いアオザイを着て登場するシーンです。A O Showの中で唯一アオザイ姿の人物が出るところで、それを自分だけが着られるという特別さもあるし、何より過去にアオザイを着ていた当時のことを思い出して懐かしい気持ちを覚えるからです」 ※今では少なくなったが、ベトナムにおいて、白いアオザイは女性が着用する伝統的な制服です。
ーフリーの日は何をしていますか?
Linhさん「映画を観たり、音楽を聴いたり、一人で街をふらふらと歩いたりします。難しいことを考えず、頭をリラックスさせますね。連休があれば、友達と何処かへ遊びに行くこともありますよ」
ミュージシャンへのインタビュー
ミュージシャン・Longさん・生まれ年は非公開
ーミュージシャンの道に入り、A O Showと出会うまでの経緯を教えてください。
Longさん「私の父は、北部モン族の伝統的な笛を扱う達人として有名な人物だったんです。その影響もあって、私自身も、幼い頃からホーチミン市の大学に入るまで民族音楽を学んでいました」
ネルソン「大学に上がってからは?」
Longさん「『バスーン』という管楽器を専門的に始めました。それから複数の楽団に所属してオーストラリアやノルウェーなどの国々を演奏して回り、ミュージシャンとしての経験を積んでいきました」
※バスーン
ネルソン「それでは、民族音楽から西洋音楽へ完全に切り替えを?」
Longさん「いいえ、私の中では『民族音楽』『西洋音楽(バスーン)』という2つの音楽が完全に共存している状態でした。ただ、民族音楽を知れば知るほど西洋音楽への理解が深まり、西洋音楽を知れば知るほど民族音楽への理解が深まってきて、それと同時に創造への意欲が湧いてきたんです。言わば古い伝統的な民族楽器を使って、新しい形で聴衆の元へ届けられないだろうか、もっと違った表現方法があるのではないだろうか。それが今まさに、このA O Showで実現出来ていることです」
ネルソン「A O Showでは、具体的にいくつの伝統楽器が登場しますか?」
Longさん「全部で17です。どれもベトナムの伝統楽器ですが、表現方法は全く新しいものばかりです」
ネルソン「あ!…カエルが飛び跳ねる音を伝統楽器で表現しているシーンがありましたね」
Longさん「そう、まさにそれです」
ネルソン「A O Showを知ったきっかけは何ですか?」
Longさん「実は、私の弟も音楽家なのですが、彼がA O Showの音楽監督と仕事をしたことがあって、そういった実験的なことを模索している人物だということは知っていたんです。その頃に私も、民族楽器の新しい使い方を考えている最中だったので、共にやろうとA O Showへ合流しました」
ーA O Showで流れる音楽の中で、見どころは何ですか?
Longさん「根底に、何処か新しい、けれども南部に伝わるメロディがあるというところです。A O Show
は、大きく2つの『村』と『街』のパートがあって、村では非常に南部らしい音楽が流れているのですが、街では現代のHIPHOPミュージックを融合させていたりと、音楽に精通している人ほど『こんなに新しい音楽は聴いたことがない!』と驚かれます笑」
ーフリーの日は何をしていますか?
Longさん「私は音楽院でバスーンを教える教師もやっているので、フリーの日はあまり無いですね」
ネルソン「もしあれば?」
Longさん「家族と過ごします、14歳と8歳になる娘がいるので」
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いかがでしたでしょうか。
こ れらのインタビューから、A O Showがベトナムの伝統を引き継ぎつつも、新しいサーカスの形を求め、またそのテーマに共感した役者やミュージシャンによって構成された舞台であるとい うことがよく伝わります。次回はいよいよ、このA O Showを仕掛け人とも言えるTuan Le監督へのインタビューです。
次回の最後には、A O Showのチケットプレゼントのお知らせもあります。ご期待ください。
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スケジュール:こちらでご確認ください。
開演時間: 18:00 or 20:00
上演時間: 60分
入場料金: Wow!席/1,470,000ドン Ooh!席/1,050,000ドン Aah!席/630,000ドン
※チケット購入は、市民劇場に入って左脇にチケットカウンターにて。
最近は満員御礼続きだそうで、余裕を持ってのご購入をオススメします。
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