ベトナムには「マムトム」という発酵調味料があり、エビの塩辛ようなものだと思っていただけると近いです。そんなマムトムを使った麺料理がブンマム。これがマムトム独特の臭さもあって好き嫌いが分かれるのですが、ダナンのブンマムはまた違う。そもそもマムトムではなくマムネムという、魚を原料に使ったもので、こちらは食べやすかったですぞ。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2020/01/08
ベトナムには「マムトム」という発酵調味料があり、エビの塩辛ようなものだと思っていただけると近いです。そんなマムトムを使った麺料理がブンマム。これがマムトム独特の臭さもあって好き嫌いが分かれるのですが、ダナンのブンマムはまた違う。そもそもマムトムではなくマムネムという、魚を原料に使ったもので、こちらは食べやすかったですぞ。
ライター:ネルソン水嶋 公開日:2020/01/08
塩辛っていいですよね!
塩辛といえばイカでつくられるイメージですが、洒落でKARASUMIと名付けられたタコの塩辛があるそうです嘘です。
目次
在住日本人、というよりたぶん外国人の多くがぶつかる、ベトナムの食文化におけるみっつの壁というものがあります。「というもの」と言いつつ私が勝手に言ってるだけなんですが(しかも今はじめて)。それは進撃の巨人に出てくる、ウォール・マリア、ウォール・ローゼ、ウォール・シーナのごとく。ってあれは巨人から守ってる方ですけども。今回は乗り越える意味での壁であります。
まず、ひとつめが、
見た目の壁、ホビロン(Hột vịt lộn)!アヒルの卵を孵化前に茹でたもの。
ホビロンを食べる若かりし頃の私(8年前)。
ただ、AKIRA(どっちかというと映画の方)の鉄雄じみた見た目とは裏腹に、おいしいです。卵の黄身と鶏肉、そして煮汁もいっしょに楽しめるという意味では、卵の形をした親子丼(ごはん抜き)と表現してよいかもしれません。
ふたつめが、
心理の壁、犬!もう読んで字のごとく犬です(写真の記事を読む)。
伝統的にテト(旧正月)や結婚式などのお祝いのときに食べるものとされ、幸福を呼ぶと言われています。比較的北部で犬食文化は根強いですが、以前中部の郊外で犬の丸焼き調理に遭遇したことも。ただ、時代とともになくなっていくことだと思います。(写真の記事を読む)
そしてみっつめが、
味と匂いの壁、マムトム(Mắm tôm)!エビの発酵調味料です。(写真の記事を読む)
「日本でたとえるなら塩辛」と呼ばれることが多いですが、そう、イカではなくエビ。発酵しているものなのでたぶんに漏れず、その匂いはインパクトが強大です。塩辛と書きましたが、だからといって酒のアテ的なポジションではなく、ソースとして使われます。以前克服しようとしたけどやっぱりダメでした、外国人は苦手な人が多いという点で日本の納豆みたいなもんです。
北部料理のBún đậu mắm tômは名前に組み込まれている通りマムトムが中心的な役割を担う料理で、これがないとはじまらないという意味では、串カツにおけるソース的な重要性を持っていることでしょう。そのほか、カリカリに揚げた豚バラ肉の付け合わせもよく見かける。
ちなみに今挙げたみっつそれぞれ、書いた通り、ホビロンは視覚的に、犬は心理的に、マムトムは味覚的(嗅覚的)に壁があると言えます。そしてこれはなにも外国人だけが…というワケじゃなく、それぞれに苦手だと話すベトナム人の知人友人と会ったことがあるので、ベトナム国内においてもクセのある料理と認識されていることは間違いないようです。
私自身「食べられないワケじゃないけど覚悟が要る」で、とりわけ中でも「味」という、食べ物として真正面からドーン!と迫ってくるマムトムに対してもっとも抵抗あります。で、中でも盛大にマムトムを使ったブンマム(Bún mắm)という料理があり(ブンは米粉麺)、まーつまるところ苦手だったのであります。
なので、ダナンにいるときにベトナム人の友人から「ブンマム食べに行きましょう」と言われて、基本的にベトナム人の友達からのお誘いは断らないんですが、珍しく「遠慮します」とNOと言える日本人をかましてた。かましてたけど、最近ダナン名物を調べるにあたってブンマムが有名だということを知って南無三!と念仏を唱えながら食べてきたんですが、びっくりしました。おいしかったの。
ホーチミンとダナンのブンマムがそもそも違ったんですね。
いつもの通り前置きが長いですが、というより最初にうんちくを垂れるというスタイルが定着してきた感がありますが、今後ともよろしくお願いいたします。
で~、こちらがその人気店!”Bún Mắm Ngọc”!
軒先では、おばちゃんがナタのような出刃包丁をまな板にたたきつけるようにして豚肉を刻んでいます。
よくある感じのアルミ製のテーブルに、プラスチック製のイス。地元の高校生くらいのボーイズが食べに来ていました。ちなみに彼らの足元にゴミ箱見えるでしょ?プライスに紛れてわかりづらいけど。
ベトナムはゴミを床に捨ててもOKという飲食店が多くて、なんなら残飯処理班として犬猫を飼ってるくらいなんだけど、最近はこのようにゴミ箱を設置している場所が増えています。
処理班の猫ちゃん。ただ、床に捨てることは合理的な面もあって、サッサッとホウキで掃いたり水で流したりすればそれで片付けが済みます。しかしながらこのようにゴミ箱を設置するレストランが増えているあたり、ちょうど今はベトナムにおける衛生観念が変わる過渡期にあるのだなと感じます。
でで!今回の主役!
どーん!これがブンマム。
ブンにマムトムだからブンマム。と思っていたし、事実ホーチミン市ではそんな料理だったんですが、ダナンではマムトム(エビの発酵調味料)じゃなくてマムネム(Mắm nêm/魚の発酵調味料)なんですね。
右上に見え隠れしている白い麺がブン。家庭料理においては白米的ポジションとしても、つまりおかずといっしょに食べられることも。で、具材は、豚肉や、魚の練り物、発酵ソーセージ、(食べた感じだと)キャベツの芯を刻んだもの、香草、そこにフライドオニオンとピーナッツがまぶされています。
ベトナム料理、なかでも中部料理には、よくピーナッツやフライドオニオンが使われがちだという印象があります。これが食感にアクセントを生んでめちゃくちゃおいしいんですよね。とくにブンマムにおいてはブン自体が、コシが消滅した素麺みたいなものなので、より重要な役割を担っていると思います。
今度、日本の料理にピーナッツまぶすって企画しようかなー。
で、チリソース!ラー油!違うチリソース!レタスに大根!たぶん大根…!
で、ぼちぼち、マムネムどこよ?と思われている頃かもしれませんが…
私の口の中です!
というしょうもないことを言うとマジで怒られそうなので早々に言うと、最初から料理にかかっています。絡められている、と言った方が適切かもしれません。
どうでもいいけど、上の写真、歯並びが絶望的に悪いやつみたいだね。
で、ブンマムが苦手だってさんざん書いたんだけど、
うまい…!
おいしいというか、そもそも南部のブンマムとは使っている調味料が違って、さきほど書いたようにマムトムではなくマムネム、エビではなく魚なんですね。前者だとけっこう強烈な匂いを発していて、じゃあこれもくさくないのかというと、くさいです。
くさいんだけど、旨味がそれに負けちゃいないというか。個人的に南部もブンマムの旨味:臭みが5:5なら、中部のブンマムは4:6で、あ~これならウェルカムだわ!っていう。もしかしたらマムトムをおいしいと感じる人は、味覚の旨味に対する感度が高いのかもしれない。一方でマムネムさんは、その旨味が「しょうがねぇなぁ」と言いながら下々の者の手が届くところまで下りてくださっている、という感じです。
ちなみにこのあたりはブンマム通りになっているようで、周辺には他店もあるようでした。後日調べるとすぐ先にあるあの「Bún Mắm Vân」の方がGoogle Mapsで高評価だったり。でもだいたいこういうのってほとんど同じレベルの味なので(共存しているのがいい証拠)、焦って行くこともないでしょう。またそのうちに。
帰り際、店員さんから「忘れてた~!」という感じで口臭消し用のガムをいただきました。ブレちゃってごめん。ブンマムがクサイ食べ物」だという認識があるということでしょう。私の口臭を遠回しに教えてくれたというワケでなければ。
テーブルの上にあった紙ナプキン代わりのザラ紙、並べ方の芸術点が高かった。
Bún mắm Ngọc
住所:20 Đoàn Thị Điểm, Hải Châu 2, Hải Châu, Đà Nẵng